第10話 アレを創り出す



「ふぅ〜」


 今、鍋で熱湯がつくれるようになったことを利用し、久しぶりのお風呂に入っている。大浴場といっても過言ではないほど大きい湯船のおかげで、ゆったり足を伸ばしてリラックスできている。


 湯船自体は木でできている火を使えないのでお湯自体は生温かいけど、これでも大満足。


「骨身にしみる……」


「にゃ……」


 猫ちゃんも木製の桶の中に入ってるお湯をお風呂代わりにし、寛いでいる。


 最初、外で全裸になることに対して抵抗はあったけど今はもうなくなった。裸族になるつもりはないけど、意外と服を着ないと開放的で最高……。


 私はスキルについて少し掴みかけているのかもしれない。森を創り出す能力だと神様の手紙には書いてあったけど、使っていくうちに色んな使い方があるとわかった。そのうちの一つは、ということ。

 一気にこの森の木々や植物を動かしてみろ、と言われたらできない。けど、何個かは動かせる。

 この動かせることを利用して、私の命令で動く人形を創ろうと思う。


 創り方は簡単。

 木を生やして、その木を人形の姿に変形させれば完成。


「おお〜」


 初めて創ったけど我ながらうまくできたと思う。

 体は色んなことをさせたいので、私より少し大きくしている。あと性別は女性にしておいた。それも私にはないアレが大きい女性に。触っても木でゴツゴツしてるけど、いつか必ず本物そっくりに再現して見せる!


 花怜は邪な考えを心のなかで宣言した。


「あとは」


 動かすことができるのかなんだけど……。


 目の前の人形に意識を持っていき、木を変形しているときのような感覚で右手を上げろ、と命令した。


「あれ?」


 左手が上がった。


 命令した方向と逆って、それはそれで珍しいのでは?


「左手」


 また命令したのと逆の右手が上がった。


 変なことを命令してるつもりはないんだけど……。なんで逆のことしちゃうんだろう? 木はそのまま命令できるけど、それを変形させたら命令したことと真逆のことをしゃうとか? 


「いやいやいや」


 そんな変なギミックあるわけがない。いやあるのかな……? 


「いえ。そのようなギミックはないと思います」


「だよね」


 って。


「え?」


 人形が喋った。

 いやこれはもう人形じゃない。

 肌色の肌を葉っぱのポンチョのようなもので隠す露出狂一歩手前の女性だ。目があって、まつ毛があって、鼻があって、口があって、髪の毛があって……。 


 さっきまでただの木の人形だったはずなのに、少し目を離しているうちに人のような姿になっていた。それも美人な女性に。

 

「私が創り出したんだよね……?」


「はい。私はあなた様に創造されました」


 機械的な返答だけど、声が生きた女性そのもの。


 この娘を創ったのが私だって言うことがわかったのは一安心したいけど、状況が状況だけに全然安心できない。

 というか、木だったのに自我を持って喋ってるのはなに?


「では、私は釣りに行かせて頂きます」


「え、ちょっと! ……私も行く」


「私があなた様が食す食べ物を取ってきますので安心してください」


「安心って……。私はあなたのことがわからない限り、安心できないの。だからついて行っていいよね?」


「お好きにどうぞ」


 嫌な顔は一切してないけど、釣りを任せてもらえなくて拗ねているのは感じた。

 もしかして創造したから、感じてる感情がわかるのかな? 

 何にせよ、自我が芽生えた本人から聞かないと。


「拗ねてるでしょ?」


「拗ねてません」


 これ絶対拗ねてる。

 

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