第7話 この気持ちは何?



 森の拡張をしていた時だった。

 猫ちゃんに連れられ向かった先に、体がボロボロになった少女が倒れていた。声をかけても返答がなかったため、私の家の中で寝かせたのだが……。


「%*〜!!」


 ちょうど私がお昼の分のシイタケを食べ終わった頃、家の方から声がした。どうやら起きたらしい。慌てて家に向かう。

 

 ……うん。見る感じ、声だけ発することができて体はまだ動かせないのかな。

 

「#&$**#&’^=&$:’ー!!!!」


 相変わらず何を言ってるのかわからない。

 さっきからこの少女は私に向かって、必死にをしている。

 ほっぺたをしぼめてみたり、目の周りにシワを寄せてみたり……。多分、私に敵意はないとそう伝えたいんだろう。

 今の少女の気持ちはよくわかる。けど、いくらなんでもすることが年頃の少女らしからぬことじゃない?

 

 最初顔芸を見たとき、これが異世界の挨拶かなにかなんだろうと思って顔芸しかえそうとしちゃったんだよね……。恥ずかし!


 私が言いたいことを理解しているのをわからない少女は、まだ顔芸を続けている。

 まず何よりも最初に、もう少女の黒歴史を増やさないためにもジェスチャーでもう大丈夫だと伝える。


「ダイジョウブ……ダイジョウブ……」


 日本語がカタコトになりながらもジェスチャーが伝わったのか、少女の顔はもとの可愛らしい顔に戻った。


「よかった」


 翌日になると、もう少女の体の傷は完全に癒え元気になっていた。朝ごはんとして出したシイタケと焼き魚を少女は口いっぱいに頬張り、美味しそうに完食してくれた。

 ご飯を食べ終わった少女は用意した水の在り処を聞いてきた。なにをするのかと疑問に思ったが、水筒に水を汲むだけだった。


 少し経ち。

 

「ん?」


 突然背中を突かれ、呼ばれた。

 後ろにいる少女の服装は、私が拾ったときと同じ服装。可愛らしい顔がどこかキリッとしている。

 なんのジェスチャーもしない。

 ただ立ってる。

 笑顔で。


 ――ありがとうございました!


 口には一切出していないが、私はその笑顔を見て幻聴で言葉が聞こえてきた気がした。

 私に言いたいことが通じたのだとわかったのか、少女は背中を向け歩き始めた。  


 徐々にその背中は遠くなっていき……。


「ちょっとまった」


 私は去ろうとしていた少女の腕をつかんだ。

 なにか理由があるわけではない。ただもう少し一緒にいたくて、腕をつかんでしまった。

 

「人と関わるはずじゃなかったのに……」 


 最初に決めたことと矛盾したことをしている自分自身にため息を吐きながら、少女のことを私の家の中まで引きずり入れた。


 ほっぺたをぷく〜っと膨らませている。不機嫌そう。

 絶対、腕をつかんで引き戻したのはなにか理由があると思われてる。どうしよう? どうしよう?

 ……ここはなんとなくで乗り切ろう!


「体、苦しい、癒やす、7日間」


 ジェスチャーでなんとなくやっただけなのに、少女は私の言いたいことがわかったのかうんうん、と首を縦に振ってくれた。


「よし」


 これ、完全に誤魔化すことできたね。ふふふ……。


 それからの7日間はただ二人と一匹で森を遊んだ。

 滝の周りの川で水遊びをしたり、猫とじゃれたり……。年齢なんて忘れて、子供に戻った気分で夢中になって遊んだ。


 だが約束の7日間は光の速度で過ぎていき、あっさり少女は帰っていってしまった。

 まだちっちゃく後ろ姿が見える。


「あぁ……」


 なんでだろう? 

 ため息とは違う、脱力した息が出てくる。 

 

 

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