第5話 犯人は……



 勢いよく高い場所から一直線に流れる水。いわば、滝。その周りの川には魚が泳いでいる。なぜ魚がこんなところにいるのかわからないが、魚はたしかにそこにいる。

 透明な水のおかげで川の中が丸見えだ。

 このことに気づいたのはついこの間、滝を見つけた時。あの時から魚がいることは知っていたが、やることが増えると頭がこんがらがるのでスルーしていた。

 けど今は『衣食住』を手に入れ、更には可愛い猫ちゃんもいる。

 まだまだ生活水準は全然上がってないけど……やっちゃう!


「釣りってやつを……」


「にゃお〜ん」


 竿は謎のしなる木材を使っている。針はこの前見つけた荷台の残骸から。紐はあまり大声じゃ言えないけど、拾った服の一部を使ったりしちゃって……。

 ま、まぁ釣り竿自体は完成しているから現実からは目を背けよう。

 餌は……。


「にゃにゃにゃ」


 今猫ちゃんが遊んでるミミズでいいや。


「にゃう……」


「ご、ごめんね? これからミミズを犠牲に釣りをして魚を釣るから許して?」


「にゃ」


 できるものならやってみろ!! とでも言いたげにふんぞり返ってる。

 やっぱ猫ちゃんって可愛い……。


「よし。やるぞ〜」


 さっきから私、まるで釣りが上手みたいに振る舞ってるけど実は一度もしたことないんだよね。

 でも多分、PCの無料ゲームでやったことあるから大丈夫なはず……。


「とりゃ!」


 ぽちゃんと言う音をたて、餌をつけた糸は川の中に入った。

 猫ちゃんが糸を獲物を狙う目で見ていたのは見てなかったことにしよう。うん。


「お」


 早速釣り竿に反応があった。

 ビクッビクッ、と魚が逃げようとしている生々しい感触が肌に伝わる。


「こんにゃろぉおおおお!!」


 ブチッ、と糸が切れることはなく川の中から魚を釣ることができた。

 びちゃびちゃ暴れている。

 とりあえずスキルを使って桶を創り、そこに魚を入れる。もちろん川の水も。  


「どうよ。私の腕じゃこんくらい楽勝なんだ〜。猫ちゃん、見直した?」


「にゃ」


 これは……すごいって言ってくれたのかな? いやぁ〜そんな褒められると照れちゃうな。えへへ。

 

 よし。可愛い猫ちゃんのためにも、私の今晩の食料確保のためにも、もっと魚を釣るぞ!


「猫ちゃん。その特等席で私の勇姿を見……」


 さっきまで偉そうにふんぞり返ってた猫ちゃんがいなくなっていた。 


「猫ちゃ〜ん! どこいったのぉ〜!」


 いつも聞こえる「にゃ」が聞こえない。

 猫ちゃんはいつもこの時間帯になったらお昼寝するこで、おそらくそのためにどこか行ったんだろう。

 全く。声くらいかければいいのに……。


「ま、いっか。猫ちゃんが寝ている間にこの桶いっぱいの魚を釣っ……」


 桶の中でいきいきと泳いでいた魚がいなくなっていた。

 

 今気づいたけど、桶の周りに濡れた肉球の跡がある。まるで桶からなにか引きずりながら、森のなかに入ったような跡も。


「全く……」


 追いかけたら魚釣りができない。

 猫ちゃんが盗みを働いたのは見過ごせないけど、今は今日の食料を釣らなければ!


「おいしぃ〜!!」


「にゃ〜ん!」


 月がよく見える夜。

 私達は十数人分の焼き魚をぺろりと完食した。

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