え、ライセンス登録できないんですか



「アシルくんはどんな作品を作るの?」



 登録までまだ時間がかかりそうだから、ふと聞いてみた。すると、アシルはルイーズと顔を見合わせてから答える。



「僕らは二人で、アクセサリーを作っているよ。ルイーズがデザインして、僕が加工することが多いかな。こういうのとか」



 アシルが見せてくれたのは、自分の首元のチョーカー。真っ黒な地にシルバーが映え、赤い石がキラキラと輝いている。



「リングや、耳飾りなんかもあるよ。どれも魔力を込めてあるから、色々な場面で役立つはずだよ」

「魔力……例えばどんな効果?」

「このチョーカーなら、魔物除けになる。アリーザが付けているリングは、水の精霊たちの加護を受けられるよ」

「へぇ。すごいんだな」



 正直言って、魔法がよくわからないもんだから、魔物除けがどれだけいいものか、水の精霊がどうかと言われて驚くこともできない。もっとこの世界のことをよく知らないといけないな。



「ちょっと。男二人でひそひそしないでくださる?」

「そうよ。私たちもいるんだから」



 話に入れていなかったルイーズとシエラ。女子二人がぐいぐいと迫って来る。



「放置していたわけじゃないんだって。ひそひそもしてないし」

「してたじゃない! そうよね、アシル!」

「うーん?」

「アシル!」



 女子怖い。すんごい圧があるし。

 いい歳して泣きそうだよ、俺。



「あの、お取込み中申し訳ありません」

「へ? あ、はい」



 泣きべそかいてた俺の前に、先ほどの受付をしてくれたお姉さんが申し訳なさそうにやってきた。それでやっと女子は静かになる。



「クリエイターライセンスの登録についてなのですが、審査の結果、再審査ということになってしまいまして……」

「え?」

「嘘でしょう? 登録できないなんてこと、私、聞いたことないわ」



 アシルとルイーズが今までにない驚きを見せる。シエラも目を丸くしている。



「再審査は今回が初めてです。ナオ様の作品の斬新性、そしてどうしてアシル様とルイーズ様の目に適ったのか。そのことについてさらなる情報が欲しいとのことです」

「つまり、どういうことです? 二人に俺を推薦する理由をもっと書いてくれってことですか?」

「その方法もあったのですが、今回は別の方法をご提案させていただこうかと」

「別の?」



 二人に文書提出させるのは気が引けた。推薦をしてくれたのはいいけれど、会って間もないのに文書提出してくれなんて迷惑な話だ。手間をとらせたくないし、別の方法があるのならそっちのほうがいいだろう。



「ナオ様の申請書に記載があったこちら――ライブペインティングをここでやっていただけませんでしょうか」

「やりましょう」

「ナオ!? 即答なの!?」



 すぐに答えたらシエラから驚きの声が上がる。



「やらない理由ないでしょ。あ、何に描けばいいです? 道具の準備もしないと」

「速やかなご決断ありがとうございます。キャンパスなど必要なものはこちらから提供いたしますので、おっしゃっていただければ……」

「いいんですか。じゃあ、俺、あそこの壁をキャンパスにしたいです」

「「「え」」」



 場が凍り付いた。

 俺がキャンパスにしたのは、ギルドの壁。全部だとちょっと厳しそうだから、真ん中だけでいい。柱と柱の間で、時計しか飾ってないシンプルな壁だし、いいかなーって思ったんだが……。



「……かしこまりました。上と相談してきます。他に必要なものは?」

「周りをよごさないためのシートと、太めのテープ、筆一式。あ、バケツと水鉄砲もあります? できればいろんな種類の」

「ないことはないと思いますが……」

「よかったー。じゃあ、それで。俺、宿からバケット取ってきます。じゃ、お願いしまーす」



 みんながぽかんと口を開けていた。

 壁に描く、バケツや水鉄砲を要求する。こいつは何をしようとしているんだとあっけに取られているんだろうな。びっくりしすぎて何も言えない、そんな顔を見るのは面白い。



「んじゃ、俺、バケット取って来るから」

「い、いってらっしゃい……」



 未だにフリーズしたままのみんなを残して、俺は宿に残してしまったカラーバケットを取りに戻った……のだが、迷子になって結局シエラに取ってきてもらった。



 ☆



 全ての道具が揃った。

 俺がリクエストしたもの全部だ。ちゃんと、バケツも大小さまざまあるし、水鉄砲も連射可能なものから、一発が強そうなものまで多種多様。遠距離から打てそうなスコープ付きのものまであるぞ。このギルド、すごいそろえてくるな。


 ちらっと受付の上を見れば、二階からジロジロとこちらを見てくる老人たちがいる。髭を蓄えて偉そうな感じの人が特にきつい目を向けている。おそらくだけど、あの人達が受付のお姉さんがいう『上の人』だろう。見た目で判断するのも何だけど、偉いんだぞって感じだし。


 まあいいや。

 俺は準備してもらったビニールみたいな撥水性のあるシートを床と他の壁に貼り付ける。これで描きたい面以外を汚さなくなる。


 今回のキャンパスは柱と柱の間の真っ白な壁。横幅3、4メートルぐらい、高さが3メートルないぐらいか。



「ナオ、大丈夫なの?」

「何が?」

「何って……壁に描くっていうし、変な道具を集めるし……申請通らないと何もできないんだよ?」

「その時はその時。ルイスくんの所でバイトさせてもらうわ」

「はあ……」



 シエラが呆れてため息をつく。



「まあ、一人でやるわけじゃないからね。はい、これ」



 頭を抱えたシエラに、バケツを渡す。もちろん、なんのことだかわかっていないから、またしてもビックリした顔になっている。



「みんなで描いた方が楽しいでしょ。今回はそうだな……暖色系で。アシルくんとルイーズちゃんは水鉄砲。インクは詰めるから待って」

「え? え?」



 なんのことだかわかってないみんなの反応が面白くて、笑いがこぼれそうになる。

 でも、手を止めず、カラーバケットに無限湧きするインクをバケツや水鉄砲に詰め、パンパンになったものをそれぞれ手に持つ。



「よし。みんな持ったね。それで壁を塗ろう! 好きなようにね」

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