ライセンスをください
「あなたが描いたものですの?」
「そうだけど……」
「ふうん。そう、あなたが……」
まじまじと見られる俺の作品。シエラの反応からして、この世界では異様なものに該当してしまうのだろうか。
少女が一歩踏み込んで目線をあげる。
瞬きひとつない、目が捕らえているのは俺の顔。
「星いくつ?」
「はい?」
「だから星よ」
「え? 星? え?」
星ってなんだよ。知らないって。
明らかに目がきょどったところで、シエラが口をはさむ。
「まだライセンス登録してないんです。これからしに行くところで」
それを聞いて、双子は顔を見合わせる。何やらコソコソ話しているけど、ちょいちょい俺を見る。
そのまま十秒ほど経ってから、双子は頷いた。
「僕らについてきてください」
「なんで? どこに行くの?」
「つべこべ言わず、ついてくればいいんです」
「はあ……」
ツンとしたまま、二人が出てきたばかりの建物の中へ入って行った。
「ナオ。行くよ」
「おう……?」
訳が分かるはずもなく、俺はその後ろに続く。
中は木の香り漂う広い部屋。奥にはカウンターをはさんで幾人もの人が動いている。何人かの人は、カウンターで話をしていたり、待合スペースとなっている広間でソファーに座っている人もいる。ぱっと見、市役所のようでもある。
開いているカウンターへとまっすぐ向かった双子は、受付の人に話してすぐ俺に手招きをする。
「こちらクリエイターギルド、新規登録受付です。ご本人様でいらっしゃいますか?」
「あ、はい」
金髪の綺麗なお姉さんがにこりとほほ笑む。陰キャタイプの俺にはその顔、まぶしすぎて、思わず目をつぶりながら返事をした。
「新規の方には一通りの説明をしております。まずはこちらをご覧ください」
カウンター上に置かれた一枚の紙。何やら絵と文字が書かれているようだ。読めないけどな。かろうじて、絵でなんとなく要旨がわかる。
「まず、このクリエイターギルドについてですが、ここはクリエイターライセンスの登録、そして作品の展示や販売、依頼の受注から特別価格で必要道具の販売まで行っております。クリエイターとして登録するには、個人の情報と作品を持参していただく必要がありますが、今回貴方様は作品をご持参いただいているので、すぐに登録の方へ移ることも可能です」
ほうほう。ここで登録しておけば、作品販売ができる……メリットが多いんだな。
「クリエイターとして登録いたしますと、クリエイターランクを定期的に星で受けることになります。最初は基本的に星1から。作品の評価が上がることによって、星は増えていき、展示販売の価格や依頼内容もグレードが上がっていく方式です。この評価はギルド内外すべての人からの意見を踏まえてつけられます」
なるほど。つまり、ミシュランみたいなものか。評価が上がれば客も増えるみたいな。ミシュランの店なんて行ったことないけどさ。
「星1で得られるのはギルド内での販売許可です。2では道具の購入が。そして3では自分の店を構えることが許可……と、クリエイターの方に有益なことばかりとなっておりますので、ぜひ上位を目指してください」
それで説明は終わったようだ。
「説明は以上になります。ご質問はございますか?」
「いえ。大丈夫です、多分」
「かしこましました。では、こちらの申請書へご記入をお願いいたします」
向かって見せられた紙は、この世界の言語らしい文字が並んでいる。
むろん、俺の知っている世界の言葉じゃない。どこに名前を書くのかもわからない。空欄がいくつもあるから、名前以外にも書かなきゃいけないことはありそうってことはわかる。
「って、ふざけないでちゃんと名前を書いてよ」
「ふざけてないし、いたって真面目なんだけど。俺、こっちの文字読めないし書けないだけだってば」
怒った少女に言い返せば、眉をひそめた疑わしそうな目で見られる。
「なあ、シエラァ……」
「もう。あ、私が代わりに書いてもいいですか?」
「ご本人様のお名前だけは、ご自身で書いていただければ他は代筆可能です」
逃げるようにシエラに助けを求めたら、俺の代筆してくれた。ただ、名前だけは自分で書けというので、シエラが指示する場所に漢字で名前を書いた。これでいいのかわからないけど。
どうやら他には、性別、主な作品のジャンルなんかも書くらしく、シエラの質問に答えながら俺の情報が記録されていく。全て書き込み終えるとその用紙は、奪われるように双子に回収される。そして、双子が同じ用紙に何かを書き込んだ。
「これでお願いします」
「はい。合わせて作品のご提出もお願いいたします」
「作品? あ、これか。はい」
「お預かりいたします。作品はライセンス証と共にお返しいたしますので、おかけになってお待ちください」
じとーっと双子に見つめられながら、空いているソファーに腰を下ろした途端、両脇に双子が並び、俺の逃げ道は断たれた。
「言葉が読めないし書けないってどういうことかしら? とんだお馬鹿さんなの?」
「ルイーズ。きっと貧乏で勉強できずに過ごしてきたんだよ」
「アシル。今の時代、誰しもみんな読み書きできるわよ」
俺を挟んで行われるやり取り。
第三者的に見たら、俺、この子達のお父さんに見えなくもない。
実際は結婚もしてないし、恋人もいなければ、子供もいないのに。甥っ子に挟まれた気持ちだ。
何にせよ、この二人が子供でよかった。
もし、屈強なおっさんだったなら、ヤクザに脅されている感あるし、ビビって漏らしてしまいそうだ。
「ちょっと、聞いてますの?」
「いや、何も聞いてないですけど……というか、お二人改めてどちら様で? どうして俺に絡むんです?」
耳がピンと動いたのは、蒼い髪の女の子。
「貴方本当に知らないのね……いいわ、教えてあげる! 私はルイーズ。そして弟のアシル。ルーアというクリエイター名で今は四つ星よ! 貴方の作品が気になってしまったの。だから申請書の推薦人欄に私たちの名前も書いたわ」
「……へぇ。そりゃどうもありがとうございます」
自信満々に名乗ったルイーズ。だが、俺の反応が不満らしく、ほっぺを膨らませている。
「アシル! この人何なの? 驚きもしないんだけど!」
「ね、不思議。なんで? 僕らみたいな子供が、四つ星クリエイターって聞いたら、驚くんじゃないの?」
「いや、四つ星がどれだけすごいのかがピンと来なくて。ほら、俺馬鹿だから」
ルイーズのフワフワのしっぽがピンと立つ。めちゃくちゃ怒ってるじゃん。
感情を表に出すルイーズ。それに対して、アシルはいたって冷静に口を開く。
「ねえ、お兄さん」
「ナオでいい。お兄さんって呼ばれるのは悪くないけど」
「……ナオさんの作品、独学?」
「学校で勉強したこともあるし、いろんな国で書き続けて変わったから半分独学かなぁ」
「へぇ。だからあんなに奇抜なんだね」
「奇抜かぁ……」
奇抜と言われるとは。やっぱりこの世界の絵とかなり違うものなのだろう。ライセンス登録できるのか不安になってきた。
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