第50話 太宰


 まさか、神社で貴方を見かけて一目惚れをしましたとも言えず、



「そうでしたか。貴方に似た方を神社でお見かけしたものですから。なにせ田舎の神社ですので都会の方が来られるやたらと目立つんです」



 あらやだ、そんなに?とつばきは照れくさそうに笑う。



「まあ、仕事をさせてもらう前のご挨拶とお礼兼ねて何度か御参りさせてもらったの。でも、リフォームの方は上手く行ったけど、蔵の方は瓦礫の撤去だけになったけどね」



 太宰はお礼を長々と述べ、深々頭を下げた。顔を上げると今度はつばきが目を丸くして太宰を見ていた。



「あら……まぁ、今度は随分大人になっちゃって……」

 


 もしや、と思いテーブルの手鏡を手に取ると、い見慣れたいつもの姿に戻っていた。どうやらいつもの調子で話していたせいで元に戻ってしまったらしい。



 どうも、この人前だと調子が狂う。太宰は落ち着きを払い手鏡を置く。



「お見苦しい所をお見せして申し訳ありません。変化の術はあまり得意ではないのです」



「とんでもない、私はイケメン君と可愛い男の子と素敵なイケメンのお兄さんが見られてなんだか得した気分よ」



「イケメンだなんて……」



 柄にもなく照れる。気分を害したらごめんなさい、と遠慮がちにつばきは聞く。



「太宰君は物の怪の類いなの?」



「はい。老齢のしがない化け狐でございます。現在は縁あって諏訪家で式神を」



「まあ、妖狐さんなのね。私取り引き先にも結構いるのよ。人だと思って話してたら、実は物の怪なんですよぉーとか言われちゃって。本当皆さん化けるのが上手で見破る大変」



 彼女は平然と話すので逆に太宰が驚く。



「失礼ですが、つばきさんにはそれほど霊的な力が感じられないのですが、なぜそんな危険な物件を取り扱うお仕事を」



 それがね、と彼女は肩を竦める。



「自分でいうのもあれなんだけど、私、なぜか昔からその、モテるっていうか、特に物の怪筋の方にね。それでね、だったらそれを仕事にしちゃおうかなって。大学で経営学を選考して企業したのよ。ほら、なんだかんだ言って物の怪さんたちもお金必要でしょ?けど、身元が不明瞭だと仕事にも就けないことがあるから。まあ、法律的にはちょっと危ない橋は渡ってんだけどね」



 ああでも、とつばき続ける。



「ちゃんとお給与は払ってるわよ。歩合だけど」


 しばらく、仕事の話をしたあと、彼女は急にシュンし、視線を俯かせた。



「嘘か本当かはわからないけど、私の家は物の怪筋の家系らしくて、そういう人達と関わっても触りなんか全然ないんだけど、元夫は普通の人でさ。ある時から体調崩すようになっちゃって。だから、好きな人ができたったって嘘ついて別れたの。つばきちゃんは昔からってモテるからしかたないねって」



「それはお辛かったですね……」



「少しね。でも好きな人には元気でいてほしいじゃない?で、別れた途端元気になって、すぐ再婚したし」



「それは……なんというか……」



「まあ、でも、私といたら死んじゃってたかもしれないし。あやめも私の体質に似ちゃたのよね。だから、悠護君の話を聞かされたときはやっぱりねって」



 自分を含め、護や悠護が揃ってあやめに惹かれたのはそういうことだったのかとある意味納得する。



「だから、あやめを父親に預けるのは心配だったんだけど、私、あのとき、この子を産もうかどうか本気で悩んでて。鳴海先生は普通の人だし、もしこの子に私の体質が遺伝したら、辛い思いをさせるんじゃないかって。


 でも、ある時夢を見たの。私は大丈夫、ママに似て強いからって。高校生くらいになったさぁちゃんがセーラ服着てそう言ってた。まぁ、夢なんだけど、それがお腹の子の声のよう気がしてさ。何弱気になってるんだって、縁あって授かった命だもの大事にしなきゃって思ったの」



 そう話すつばきは優しい母の顔をしていた。


 その後、元の姿のまま太宰は今の仕事のことなどを彼女聞かれ、それについて話していると「うちで働かない?」と真剣に誘われた。契約があるので、と、それを丁重に断ったが、気が変わったら連絡してね、と太宰の心を見透かすようにつばきはウインクした。



 正直、心がぐらついた。




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