第46話 太宰


 東京という所は実に騒がしい。


 その通りには祭りのような賑わいと、派手な出で立ちの若者が溢れていて、少々面食うが、やはり人間とは面白いものだと、スマホをかざし動画に残す。



 あやめと凛はその街ある艶やかな洋服などを取り扱う商業施設で買い物を楽しんでいた。悠護はあやめに時折される「どっちがいいかな?」という質問に非常に困っており、そのお鉢が太宰に回ってくるので、それに答えると、あやめは「うーん」と難しい顔をいつもした。聞かれたから答えたわけであって、その反応は多少不愉快でははあったが、あやめが楽しそうに笑う姿を見ているのは飽きなかった。



 しかし、本来の目的はあやめを見つめる事ではなく、護の護衛である。護はといえば終始つまらなそうな顔をしてあとをついてくるだけだった。自分の想い人が目の前で恋人と親しくしているのだから仕方ないといえば仕方ない。



 太宰は自らの仕事をするべく、護を迎えにいって欲しいと悠護の目の届かない所であやめに頼むと、彼女は快く引き受けてくれた。



 素知らぬ顔で店を物色していると、悠護がスマホを片手に憤りながらやってきた。

「おい、太宰っ、護今どこだ?そこら中の人のスマホが使えなくなってるっ、それにあやめちゃんもいないし、連絡もつかないっ」


「さぁ、化粧室にでも行かれたんじゃないですか?」


「とぼけんな、二人でいないなんておかしいだろ?もう二十分も探してる」


「凛に探させているのでしょう?時期戻ってきますよ」


「護のせいで磁場狂ってるし、凛に連絡がつかないんだよ」


「大丈夫ですよ、護様とあやめ様の間に悠護様の心配するようなことは何もありませんから」


「……でも」


「あやめ様が悠護様を思う気持ちは術なんかではございません。私は悠護様が蔵に押し潰され死にかけていた時のあやめ様を見ておりますから。あのときのあやめ様の取り乱し様ときたら、見るに耐えませんでした。それは護様もご存知です」


「……」


「だから、もっと自信を持ってください」


 悠護は面白くなさそうに「あっそ」と使えないスマホをいじり始めた。



 その後、少しして護とあやめ、そして探し疲れた凛が戻ってきた。悠護は護を気にしていたようだったが、護は先程とは打って変わって表情は心なしか明るくなっていた。



 そしてその日の夕方、太宰たちはあやめ宅を訪ねた。



「いらっしゃい、どうぞあがって」


 美しい笑顔と明るい声で出迎えてくれた女性に太宰は驚きを隠せなかった。それはいつぞや神社であった、心をざわつかせた女性だったのである。

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