第34話 諏訪悠護
34話 諏訪悠護
やはり、術は効いている……
図書館前の昔からある喫茶店にあやめを誘った悠護は、飲み物にも手をつけず母親のことを話すあやめを眺め、その都度、適当な相槌を打つ。術の威力の凄さにもはや、彼女の話などろくに耳に入って来ない。
そもそも、会いたいと思って、ばったり会っちゃった!みたいなドラマのような偶然がそうやすやすとあるわけがない。そして、彼女は「太宰さん」ではなく「悠護さん」と呼び方も変わっていて、なんだか上手く事が運び過ぎでいて逆に違和感すら覚える。
あやめは髪を耳にかけ、済まなそうに謝る。
「母のことでご心配をおかけしてすみませんでした。悠護が占ってくれなかったら、私、母のこと何も知らないままだったから……」
と言われても、占ったのは悠護ではなく凛なのだが、彼女は凛変化を完全に悠護だと思っている。こんなことならもっと凛から詳しく話を聞いておくべきだったと思いながら、当たり障りなく話を合わせる。
「あぁ、全然。僕は出来ることをしただけだだし。お母さんの状態も落ち着いたみたいで、僕も安心したよ」
彼女は辺りをチラチラ気にし、椅子の前の方へ座り直す。急に顔が近づき、悠護はドキリとした。彼女は声を顰め話し出した。
「でも、私、これまでのことが今だに信じられなくて……昨日あれは夢じゃ無いですよね」
確かにこの手の話はあまり聞かれたくない。幸い席は店の奥で、店主はカウンターの客と話に夢中になっている。
確か凛の話では、護の呪物があやめを襲い、それを悠護が助けたことになっているのだ。
「怖い思いをさせてごめんね。あんなことを滅多にないから。こんなこと言いたくないけど、護は家族の中でもちょっと特殊でね。ああいうものに好かれるっていうか、普通の人には災いになるもの、護は平気なんだ。例えば呪いみたいなやつとか」
「呪い……」
「ごめん、怖い言葉使っちゃって」
彼女は真剣な眼差しで悠護を見つめ返す。
「いえ、今は信じます」
「だから、護と関わると体調を崩したり、良くないことが起こったりする」
「なんか、わかる気がします……」と深くあやめは頷く。
「普段はそれが出ないように体に術をかけてるんだけど、感情が昂ぶったりすると制御できなくなるみたいなんだ」
「なるほど」
彼女がこれほど納得しているということは、信じるに値することが身の上にあったのだろう。
「正直、家族も護の扱いにナーバスになってるんだ。護が本気で力を暴走させたら、誰にも止められないからね。引きこもってるのもそのせい」
それにあやめはきまり悪そうに俯く。その様子が少し気になる。
「あやめちゃんが護に優しくしてくれるのは嬉しいけど、また昨日みたいなことに巻き込まれると大変だし、護とは距離を取ったほうがいいよ」
「……」
黙ったままの彼女に「あやめちゃん?」と聞き返す。
「……さっき、諏訪君に酷いこと言ってしまって」
「ああ、心配しなくても大丈夫だよ。護もそんなことで呪いをかけたりはしないと思うし」
「そうじゃなくて……諏訪君は恵まれてるって、八つ当たりしちゃって……」
「八つ当たり?」
「そんなこと言いたくなかったのに、嫌な態度を取ってしまって」
これも術の力、なのだろうか……?ただ、見えない何かしらの力が働いているの確かだ。
あやめは急に怪訝そうな顔をする。
「ていうか、呪いとかかけられる人なんですか?諏訪君って?」
「いや、呪いは基本禁じられてるから。ただ護は思っただけで無意識に呪いになってしまうことがあるってだけ」
あやめの顔色がみるみる青ざめるた。
「私、諏訪君に謝った方が良いですね……」
「僕から伝えておくから心配しないで」
「すみません」
外を見ると、ヘッドライトをつけた車が通り過ぎる。いつの間にか外は暗くなっていた。
車を呼んでも良かったが、バス停が目の前にあったため、二人で外灯したの停留所で話ながらバスを待つ。
今なら言えるーー
「あのさ、あやめちゃん。今度の土曜の花火一緒に行かない?」
あやめは少し驚き、悠護を見る。あやめの言葉を切に待っていると、突然クラクションが鳴った。
黒のセンチュリーがバス停に止まり、太宰が車から降りてきた。
「お迎えに上がりました。悠護様、あやめ様」
そこにに強敵が現れた。
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