第28話 諏訪護
外灯がポツリポツリとある深夜の下り坂をあやめは勾配のせいもあってずんずん先へ歩いてゆく。よく見ると浴衣の足元はスニーカーである。
護のうちからコンビニまでは少し歩かなければならず、ついた頃には護もあやめも疲れ果て、駐車場の車止めの柵に離れて座り、彼女が買ってくれたアイスを黙々と食べた。
大好きだというチョコミントアイスで元気を取り戻したあやめは、帰り道は饒舌であった。彼女の太宰への愚痴は止まらない。
「あの人、絶対サイコパスよっ、諏訪君もそう思うでしょ」
あやめのあまりの圧に護は苦笑し、頷く。
「てゆうか、諏訪君って、陰陽師なの?悠護さんも、太宰さんもそんな話ししてたから」
護はその思わず顔が引きつる。そう呼ばれるのは胡散臭く、護はとてつもなく苦手なのだ。
「……ただの神主見習いだよ」
「でも、なんか超能力みたいなの使えるんでしょ?諏訪君も太宰さんも」
「……まあ、少しはね」
あやめは「へぇーすごいね」と護を感心したように見つめるので、照れくさくなりとっさに視線を逸らすものの、ちょっと格好をつけ手みる。
「まあ、なんてゆうか、術を使って良くない物を払ったり、沈めたり、結界みたいなのもはれるよ、一応」
見てて、と指で九字印を素早く結ぶとあやめは「わぁ」と驚いた。彼女の反応に悪い気はしない。
「あと、日を視たり、家相を視たり、物探しとかも出来る」
それにあやめが食いつく。
「それって人探しも出来るってこと?」
「……うん、たぶんね。やったことないけど」
「ねぇ、お母さんがどこにいるか探して貰えない?」
それに護は聞き返す。
「えっ?お母さんなら一緒に家に来てるんじゃないの?」
「あれは義理のお母さん、本当のお母さんはどこにいるかわかんない。まあ、スマホの電波辿ればわかるんだろうけど、上手く出来なくて」
あやめは親が離婚していること、実の母親が機密事項の多い仕事に関わっていて、居場所を教えてくれないのだと話した。
大真面目に護は言う。
「もしかしてお母さんってスパイなんじゃない?円満離婚だったんでしょ?それって家族に危険が及ぶからなんじゃないの?」
「まさか、映画じゃあるまいし」
「スパイだから、居場所言えないんじゃない?」
「だったら余計に心配だよ。それに、もうすぐお母さんの誕生日なんだ。だから、ごはんくらい作ってあげたいなって。お母さん言ってたんだ。私のごはんが元気の元だって。だから、その占いで探して貰えない?」
でも……と護が答えると、アイス奢ったでしょ、と睨まれる。さっきのどうしようもなく色っぽいあやめはやはり術のせいなのかもしれない。護は力無く「わかったよ」と頷く。
「ありがと」と彼女は微笑む。やはりあやめは可愛い。
しかし、またすぐに、もう、汗でゆかたベタベタ、とぶつくさ言い、歩き出すあやめの背中に護は聞く。
「それよりさ、やっぱりさっきのこと、覚えてない?」
「何?私諏訪君に何したの?」
「いや、その……」
「何よ、気になるじゃない」
「やっぱり、いい。今の兵藤さんの方が兵藤さんらしくて好きだから」
「えっ……」
護はふいに口から溢れた言葉に慌て「今のは違うから」と全速力で坂を登った。
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