第24話 兵藤あやめ
夢を見ていた。
その日、父と母は私の9歳の誕生日を祝ってくれていた。目の前には大きなケーキに欲しかったワンピース、私が人生で最高に幸せだった日だ。
楽しいはずなのに、私は9歳の私に向かって「ろうそくを吹き消しては駄目」と訴え続ける。ろうそくを消したら幸せな夢が終わってしまうから。
9歳の誕生日を迎えた次の日、両親から離婚の話を切り出された。
理由は母の仕事だった。多忙な母と父はすれ違うようになり、このままでいるよりは別々の道を進んだ方が良いと話し合った結果、そうなったのだと聞かされた。円満離婚だった。
「あやめはお父さんとお母さん、どっちと暮らしたい?」と究極の選択を迫られた。
私はなんて答えたんだっけ……
その後から記憶が曖昧で、気がつくと母と二人で暮らしていた。
このろうそくの夢を見るときはたいてい良くないことが起こっているときだ。私はこの夢を見たあと、お風呂場でずぶ濡れだったり、朝の公園に佇んていたり、夢遊病のような状態になっている。病院では両親の離婚によるPTSDが原因だろうと、カウンセリングも受けていた。最近はあまり見ることもなくなっていたのだか、またこの夢を見ている。私は9歳の私に「ろうそくを吹き消しては駄目」と訴えながら……
しかし、今日はその夢にあのうねうねが出てきた。あの体験はよほど強烈だったのだろう。それはまた私に絡みつき、あの嫌な感触が体を中を駆けずり回る。叫びたくても口の中まであのうねうねが入ってきて、声も出せない。
そして、そのうねうねは私に囁く。
「主にあだなす者、許すまじ」
このままでは殺されると、夢なのに切実に感じてしると、それは急に枯れ出した。
「兵藤さんっ」
誰かが私を呼んだ。そうだ、目を覚まさなくちゃーー
目を開ければこの悪夢は終わる。だか、蔦が絡みついて目が開けられない。しかし、次の瞬間、眩い光がさした。目を閉じていてもその光を感じる。
薄っすら目を開けると、白く光る狐が「こっちへ」と私を導く。私は狐の後をついて行く。
気がつくと私は太宰さんの腕の中にいた。
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