第23話 諏訪護
さっきまで腕の中にいたのは狂おしいくらいに妖艶なあやめであった者が、一瞬にして黒い蔦の塊に変わっていた。
黒い蔦の塊はもぞもぞと動く。いったい何がどうなっているのか、護が呆然としていると中から呻くような声が聞こえてきた。
「くっ、苦しい……」
そうだ、助けなきゃっ!
護はコンに蔦をほどくよう命じるが、コンは彼女を離そうとはしない。やはり術が完全ではなかったようだ。護は蔦の塊を横たえ、蔦の端を掴み『枯れろ』と念を送る。すると蔦はみるみる枯れ、蔦の間からあやめの顔が垣間見え急いで蔦を取り払う。
「兵藤さんっ!」
声をかけても返事はなく、呼吸をしているか確かめると、息はしているようなので気絶しているだけだと、ホッとした。コンは枯れ果て今はピクリとも動かない。
やはり呪物など式神にするべきではなかった。
まだこんな力が残ってたなんて……
コンの力を見誤り、指示も聞いて貰えない自分の力量のなさに落胆する。
「やっぱり、他の人に封じてもらうしかないな……」
ガサガサと、蔦を払っていると背後に二体の気配を感じ、振り返る。そこには太宰と兄、悠護の姿をした凛がいた。
「どうされました、護様」
そこには袴姿の太宰と、同じく袴姿の凛がいた。彼らに隠し事はできない。
「これは……」
あやめが蔦だらけなのに気づいた太宰は速やかに、蔦のをあやめの体をから引き剥がす。次の瞬間、Tシャツの襟を後ろから引っ張られ、護は後ろに倒され、凛に見下される。
「護っ、まさか、呪物であやめちゃんをどうこうしようとしたのか?」
「ち、違うよ!コンが勝手に!」
「最低だとは思ってたけど、ここまでとはな」
「やめろ、凛。今は彼女の方を優先しろ」と太宰が一喝する。
はいはい、と凛は狗神の姿となり、蔦を引きちぎるようにして食べ始めた。凛の能力は『貪食』だ。怪異を食べ、それを力にできる。
蔦はすべて取り払われ、太宰が彼女を抱き起こし声をかけると、あやめはそれに反応し、ゆっくり目を開ける。
「大丈夫ですか?あやめ様」
あやめはすぐそばの太宰に驚く。
「だっ、太宰さんっ!何してるんですか?」
離してくださいっ!とあやめは彼を押しのけ、辺りをキョロキョロする。
「あれ、なんで私外に? えっ?なんで諏訪君まで?」
どうやらあやめは先程のことを覚えていないようだった。いつの間にか凛の姿はなく、さも今駆けつけたかのように、兄、悠護の姿をした凛がラフなTシャツ姿で現れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます