第21話 諏訪護
竹林がざわざわと風に揺れた。
足元の仄かな明かりは、彼女の姿をまるで幻想のように映し出す。彼女は護の方に向き直り、髪を耳にかけ微笑む。
これは夢……
まさか、彼女に会いたい気持ちが具現化して、そう見えているだけなのか?きっとそうだ。とうとう、自分は見たいものを具現化できる能力を得たのかもしれない。
それって最強のスキル過ぎるーー
そしてそれは実物と遜色ない、むしろどうしようもなく可愛い。護が呆けたように彼女を見ていると、彼女は護に話しかけてきた。
「素敵なお庭ね」
僕の幻想は喋れるのか……
とりあえずそれに答える。
「そう……かな」
「うん。素敵。こんな時間に君は散歩?」
例え自らが生み出した幻想だったとしても、さっき君を襲った呪物を探しているとは口が裂けても言えない。当たり障りなく「うん」と答える。
すると彼女は両手を腰に当て護を疑わしく見やる。
「どうだか、本当は私の部屋覗きにきたんでしょ?」
違う、違う、と護が本気で慌てふためくと、彼女はそれがおかしかったのかクスクス笑う。
「もぅ、冗談だよ。そうだ、良かったら、一緒に散歩しない?一人だと迷っちゃいそうだし」
「えっ……」
あーこれ、絶対、幻想っていうオチだ。言ってほしいこと全部言ってくる。
とうとう自分の能力はここまできてしまったのか、少し恐ろしくなる。
絶対、現実の兵藤さんは僕を見た時点で悲鳴を上げ逃げ出すに決まっている。
そう思った瞬間、頭はようやく冷静さを取り戻す。もしかして、コンは何かを感じ、ここに自分を連れてきたのかもしれない。コンは誰より兵藤あやめの波動を知っている。そして本当に微かだが、いつものあやめとは波動が違っているような気がする。
彼女は兵藤さんじゃない、誰かに憑かれてるのかもしれない……
そう思った矢先、
「行こ」
護の右手は彼女に握られ、彼女は可愛く笑い肩を竦めた。
えっ……
その手はか細く、近づいた彼女からは未だかつて嗅いだことのない、狂いそうに甘い、いい香りがした。
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