第20話 諏訪護
深夜の蔵にはまだ灯りが灯っていた。
万年床だった布団はいつの間にか敷き替えられ、部屋は見違えるように片付いている。
しかし、この蔵の主、諏訪護のしていることはさして変わらない。
寝ては食べ、ふかふかの布団の上でゴロゴロし、今日のことを思い返しては猛省し、しまいには今日新しく式神として使役することになった、呪物であったうねうねに切ない胸の内を語っていた。
「今日くらい一緒にごはん食べれば良かったかな……」
今、一つ屋根とはいかないが、うちに兵藤あやめが来ている。断水の間うちに来てはどうかと、あやめの母に太宰が提案し、一家は揃って屋敷の離れに泊まっているのだ。
なのに、自分は一度も彼女に会っていない。
「でも……これ以上嫌われるの嫌だし」
その呪物は護が話しかけると、さも、そうだと言わんばかりに、うねうねと反応する。 傍から見れば太いミミズに少年が話しかけている絵面になる。もはや不気味でしかない。
その姿から、護はこの呪物に「コン」と名付けた。理由はしごく単純で、茶色くこんにゃくみたいだからである。
枯れた呪物は太宰が全て回収してくれ、ここへ持ち帰ってきた。呪いもだいぶ削がれ、試しに新しい式神としてこれを使役してはどうかと太宰は提案されしてきた。
しかしである、こんな気味の悪い呪物などもっての外だと断るものの、うねうねはそれを察し、体をうなだらせる。なんだか自分を見ているようで悲しくなり、それに名を付け式神としたのだった。
あーでもない、こーでもない、とコンに愚痴っていると、コンは突如蔦を上に伸ばし始めた。どうしたの?と聞くまもなく、コンは窓の外に蔦をかけるとそのまま外への逃げ出していった。
……式神に逃げられた
術が完全でなかったのかもしれない。護は
上手く術が使えない。術式は幼い頃から嫌というほど叩き込まれているため、間違いはないのだか、気持ちの弱さや迷いが術にも反映されるため、いつも中途半端になりがちだった。それは命にも関わるため、必ず太宰の立ち会いのもと施術をする。今日も太宰の見ている前で行った。
なのに……
力は弱まっているとはいえ、呪物は呪物だ。回収に行かなければと、渋々蔵を出た。
まさに、今の護は飼い主に嫌気がさし、脱走した飼い猫を探している状態だ。虚しさしかない。コンの弱々しい気配を足取り重く追う。
いつの間にか、来客用の竹林のあたりまで来ていた。足元には仄かな灯りが灯っている。直ぐ側にはあやめがいるであろう、離れがあり、それをチラチラ気にしながら、護は竹林の小道を進むと、そこに髪の長い浴衣姿の女性がたたずんでいた。
それは紛れもなく、兵藤あやめであった。
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