第15話 兵藤あやめ




 坂の上のではまたもや高々と水柱が上がった。


 うちの方だ!!



 家には弟と義理の今母がいる。あやめは急いで坂を駆け登ると。自宅前の水道管が破裂ししたらしく、高さこそないが地面から水がとめどなく溢れ出していた。



 まさか、これも諏訪君が……



 もはや、命の危険すら覚える。金輪際、護とは関わりたくないと切実に思う。上の水はとりあえず自宅には被害ないことにホッと胸を撫で下ろす。



「兵藤さんっ」と呼ばれ、後ろを振り返ると、銀髪の女子高生と護が立っていて、彼はなにか言いたそうな顔をし、口を鯉のようにパクパクさせている。



 こんな非常時に何だが、彼は自分のことを好きだといいながら、あやめ宅から帰るや否や、別の女子とやたら親密そうにしているのはいったいどういう了見なのだ?と酷く腹が立っていた。別に護の事などなんとも思っていなかったが、酷く馬鹿にされた気分で、しかも、その女子高生はアイドルみたいに可愛かった。



 そして、最悪な事に……



「何だかすみません、家族で押しかけてしまって」



 縁無しの眼鏡をかけ、痩せ型で人畜無害の物腰の低い父は、諏訪家の玄関先で、迎えられた護の両親にペコペコと頭を下げる。



 一方、恰幅がよく、白髪を後ろに撫で付け貫禄のある護の父と、細身で黒髪をきれいに纒めた和服美人の護の母は、笑顔で兵藤家一家を迎えた。



「困った時はお互い様ですわ。断水に床下浸水なんて、本当に災難でしたね。なんのお構いも出来ませんけど、どうぞ、上がってください」



 そうなのだ、兵藤家一家は諏訪家のご行為により、しばらく護宅(悠護宅でもあるが)でお世話になることになったのだった……



「あやめちゃんっ、大丈夫?心配したよ」



 そこに慌ただしく袴姿の青年がやって来て、そう声をかけられた。



 え?



 「芥川」だと気づくまで、数秒かかった。それは眼鏡を外し、普段会っていた文学青年とはかけ離れた凛とした姿の諏訪悠護だった。

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