第13話 諏訪護
兄に成り変わっている凛とあやめを自宅に送り届け、護は凛と二人、もと来た坂を下っていた。
兵藤あやめの自宅はさっきの公園から結構な勾配の坂を登った住宅地にあり、そこから例の現場が見渡せた。
「あーあ、大変なことになっちゃってるね」
凛は悠護の顔をしてその混乱を楽しむように眼下を眺める。それに対して護は返す言葉もない。水位は下がったように見えるのが、まだ水は吹き出したままで、パトカーやらポンプ車やらが出動し、複数の警官が交通誘導ている。
こうして凛と二人になるのはいつぶりだろう。前にもこんなことがあったな、とその時のことを思い出してみるが、今日のようにやらかしてしまった後だったな、とさらに気持ちは落ち込んだ。
それも凛の悪質なイタズラのせいで、護の力が暴走し、それに巻き込まれた兄が意識不明になり、生死の境を彷徨うという最悪の事件だった。今日これはまるでデジャヴのようだ。
その上、片思い中のあやめには「最低」という烙印をおされ、ビンタまでされた。そして、この隣の不良式神はあやめに対し、王子様的振る舞いで、彼女をお姫様様抱っこするは、歯の浮くようなセリフを並べ立て、あやめちゃんが心配だからとかなんとか言い、いつでも連絡してと連絡先まで交換していた。
「……いったい凛くんは何をしたいわけ?」
「護いびり」
聞くんじゃなかった……
「つか、いい加減気づけよ。お前にまともな恋愛なんて無理なんだよ。蔵で死ぬまで寝てろ」
「……言われなくてもそうするよ」
「じゃねーと、あの子のこと、そのうち殺すぞ」
その言葉は重く心にのしかかる。
今日だって兵藤さんを危険な目にあわせてしまった……
あの棒は僕の思念を吸って暴走した。僕は兵藤さんと見つめ合う兄に無意識に嫉妬していたのだと思う。そして、兵藤さんに会えた嬉しさが爆発してしまった。
胸が痛いよ……兵藤さん
思わず涙が溢れそうになる。それを察してか、凛は柄にもなく僕の頭をポンと撫でた。
「心配んな。あの子に絡んだお前の呪いは俺が全部喰っといた。つか、こんな格好してなかったら、あんな雑魚、秒で喰ったわ」
そう、彼は人間みたいな格好をしているが、人間ではない。僕の生きてきた世界はそういう世界だ。
凛君は狗神という動物を痛めつけ、人を呪うという術から生まれた怪異で、代々諏訪家の人間が封じてきた塚が壊れ、凛君は諏訪家に一矢報いようとしたが、返り討ちに合い、諏訪家の式神に下ったと太宰さんから聞いてる。
昔は、形も持たない妖獣だったらしいが、式神として様々な怪異を取り込むうちに、形を持つようになり、今ではその姿を自在に変えられるようになったそうだ。
そして、太宰さんはそのもっと前から式神として諏訪家に使えているそうだ。なんでも、元の主との契約で諏訪家の行く末を見守るよう言い使ってあるという。
だから太宰さんはこの家を守る最強の式神、いや、式神なんておこがましい、守り神みたいなものなのだ。だから、気安く呼び出すことなんてできない。そして、代々諏訪家の長男につくのが習わしらしく、兄が生まれた際、兄の式神となり、紆余曲折あり僕の式神になってくれた。
凛君はまた別で、諏訪家の人間に弱みを握られているそうで、仕方なく式神をしている。
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