第10話 諏訪護


 蝉の声が煩い。



 なんで……



 道路を挟んだ公園前の歩道、護は赤黒く変色した棒を握りしめたまま佇んていた。凛の妖気を頼りにやってきた先で、白い日傘をさした兵藤あやめと、兄、諏訪悠護がどういうわけか見つめ合っていた。



 白いセーラー服を着たあやめは可憐であった。日傘に照りつけた日差しと兄の着ている白いシャツのせいでそこだけ白く浮かび上がり、白昼夢を見させられているようで声がかけられなかった。

 



 見ているには苦しく、その二人の美ししさに目を逸らすことはできない。地面にはおびただしい汗が滴り落ち、その汗はすぐに乾いていく。暑さも疲れも忘れて護は二人を見ていた。



 その時だった、



「ちょっと君」



 それは自転車をひいた警察官だった。



「棒を振り回して、奇声を上げている少年がいるって通報があって。それ、君だよね?」



「えっ……」



「お名前教えてくれる?それと身分証持ってるかな?」



「い、いえ……」



 警官は丁寧な物言いだが、目はしっかり護を品定めしている。



「じゃあ、お家の人に連絡したいから、連絡先教えてもらえるかな?」



 なんでこんな時に警察がっ!!


 

 逃げようにももう体力は底をついていいた。背に腹は代えられず、



「あ、あそこに、兄が……」と護は情けなく二人の方に指をさすと、警官は護を連れ道路を渡り、二人に声をかけた。




 やはり、そこにいたのは凛であり、悠護ではなかった。それに少し護はホッとする。見た目は同じように見えても、人の厚みというか、雰囲気というか、威圧感のある兄とは全くの別物だった。



兄に成り変わっている彼はいかにも辛辣に、それでいて飄々と悠護をやってのけた。彼もまた偽物のため、身分証は持っていなかったが、あやめの証言もあり、護の身分は何とか証明され、注意を受けただけだった。



 とにかくあやめが無事だったことに安堵するも、あやめの幻滅した眼差しは護の心に深く突き刺さった。



 

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