第8話 諏訪護



なんで、兵藤さんが凛君に……



護はその紙を持ち立ち尽くす。

凛は兄、悠護の式神であり、太宰とは犬猿の仲だ。太宰がこんなふうに知らせて来るあたり、彼にも何あったのかもしれない。



凛は元々妖力の強い妖獣だったが、式神随一の強さを誇る太宰の体を喰ったことで、彼は一族一の最強の式神となった。



普段は兄と同い年くらいの青年のいでたちをしており、髪は金髪、目は薄いアッシュグレーで全体的にちゃらついた雰囲気ではあるがそれが猟奇的に似合っててお世辞なしで格好良い。しかし、妖獣の姿は世にも恐ろしい口の裂けた狗神である。


自分の真の姿を棚に置き、小柄で少し天パー気味の護を容姿を小馬鹿にしてくるのが彼の常であった。



まさか、凛君も兵藤さんのことが……?



一瞬そんな考えがよぎるも、どう考えても護への嫌がらせとしか思えない。たぶん兄がいないため、凛は好き放題やっているに違いない。



兵藤さんに何かあったら……



式神は危険な存在だ。力のバランスが崩れれば、主でも命も取られかねない。ましてや妖獣のたぐいと関わることのない一般人だとすれば、その影響はかりしれない。



紙とペンを持ち式神を飛ばそうと思い立つものの、そんな子供騙しの術では凛に太刀打ちできるわけもないと、それを投げつける。



こんな時に太宰はおらず、どうしていいかわからない。



あやめの恐怖に震える姿が脳裏に浮かぶ。



兵藤さん……



意を決したように、護は蔵に安置されたよくわからない呪物の棒を手に取り、蔵の重い扉を開ける。ぶわっと夏の暑さが体をつつみこみ、日差しの強さに目が眩む。数歩いただけなのに暑さと、過度の運動不足で鉛のように足が重い。



そうだ、電動自転車っ!



家事全般をしてくれる式神がそれを使っていることを思い出し、それを借りようと母屋の勝手口に行く。ちょうど鍵もついていたため「ちょっと借りるねっ」と勝手口に声をかけ、かごに棒を投げ込み、サドルに跨り、ペダルを踏み出す。



軽いっ、これなら行ける!!



屋敷の坂をくだり、一心不乱に凛の気配を負う。皮肉だが、強すぎる妖気のおかげで、凛の居場所は手に取るようにわかる。



しかし、突然自転車の充電は切れた。充電の切れた自転車のペダルは呪われたように重い。



だめだ、走ろうっ!



護は自転車を捨て置き、棒を片手に走り出す。体力不足のせいで数十メートル走ったくらいで肺がオーバーヒートし、足がもつれ地面につっぷす。地面は焼け焦げるように熱い。



行かななきゃ……!!



護は顔を上げ、上半身を起こすと自分に術をかけるように叫んだ。



「体力っ回復しろおぉぉぉーーーーっ!」



術がかかったかわかからないが、護はそこから立ち上がると、街中を奇声を発しとにかく走った。

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