第7話 諏訪 護


「あれ……太宰さんが来ない……」




護は今日がいつもと違っていることに気がついた。いつも三時半きっかりに、式神の太宰がおやつを持ってきてくれるのだが、今日はまだ扉をノックする音が聞こえなかった。




万年床と化した布団で寝返りをうち、柱時計に目を向けるとすでに三時四十分になっていた。たかが十分、しかし、ずっとこんな生活をしている護には時間通りでないことはただただ不安でしかなかった。



もしかして、見捨てられた……



 目尻に涙が滲む。




 太宰はこの家で唯一の味方だった。母親を早くに亡くし、幼い頃は護に関心を持っていた祖父母や父だったが、護の心の弱さがどうにもならないことがわかると、優秀な兄ばかりを見るようになっていた。その上、父の再婚相手である義理の母とも護は折り合い悪く、護はさらに孤立を深めた。それとは対照的に兄は義理の母ともうまくやっていた。




 そのうち護はいないものとして扱われるようになり、そんな自分を不憫に思った太宰が、兄に反旗を翻し護の式神となってくれたのだ。




式神にとって主の命令は絶対である。ましてや、主を裏切る行為など許されない。だから、太宰は体半分を新しい式神に食わせることを条件に兄悠護の式神を辞したのだ。



そんな彼が自分を見捨てる訳がない。



そうだ電話――



護は布団から身を起こし、スマホを探すが先日壊れたことを思い出し、また布団に寝転ぶ。こうなったら式神を飛ばそう。しかし、くだらないことで式神を飛ばすと太宰に叱られるため、それも諦める。




また、占いの本を手に取り同じページを読む。不思議と兵藤あやめのことを考えると不安が消える。そして、どうしょうもなく胸が苦しくなった。




当初、護はこの胸の苦しさの原因がわからず、彼女は自分の命を狙う術師ではないか?と太宰に真面目に相談したところ、それは恋だと言われた。



恋なんて自分には無縁の物だと思っていた。



太宰のいった通り、彼女は命を狙うどころか僕に毎朝「おはよう」と笑いかけてくれた。




彼女の微笑む姿を思い浮かべ、ニヤニヤしていると、扉の下の隙間から一枚の紙がスルリと入ってくる。それは護が術をかけ、連絡ように太宰に持たせていたものだ。



そしてその紙には



『兵藤さまが凛に拐われました』



と書かれてあった。







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