第3話 兵藤あやめ


5月末の体育祭。


確かにその日は初々しい初夏の日差しが照り付ける暑い日だった。2日間続いた体育祭最終日の午後ともなると、疲れもあったのかもしれない。


ただその時、特に体調の悪いクラスメイトは見受けられず、体育祭の最後を締めくくるフォークダンスに、皆ソワソワしていたのをあやめも記憶している。



しかし、フォークダンスが始まるやいなや、あやめは頭痛に襲われ始めた。初めは軽い偏頭痛だった。それが音楽が進むにつれどんどん酷くなってきた。そしてそれは立っていられないほどになり、あやめは意識を失い、気がつくと病院にいた。



原因は熱中症だった。



生徒が多数病院に運ばれたことから、夕方のローカルニュースにもなったほどだ。しかし、搬送されたのはあやめのクラスメイトだけだった。



あの日以来、諏訪護が学校休んでいることから、クラスの女子が誰一人として、彼と踊らなかったことを彼が逆恨みし、呪いをかけたのではないかと口々に噂した。



そんなことあるわけない、あやめは今の今までそんなことは信じていなかった。呪いなんてないと。


隣の席の諏訪は多少人見知りではあるが、挨拶をすれば蚊の鳴くような声でだか返してくれたし、お礼も言える礼儀正しい生徒だと思っていた。



そんな不愉快な噂をされ、学校に来づらくなってしまっただけなのだと。



この男の話を聞くまでは――



申し遅れましたと、執事の男は「太宰」と名乗った。






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