第3話 変わってしまった君 変わらない私。

「中学3年生に上がったある日からさ、海は私と一緒に帰らなくなったよね。初めはさ、海が『今日用事あるから先に帰る』って言う理由だったのもあって、私もそうなんだぐらいにしか思ってなかった。だから、その時はそんなこともあるのかなって気にも留めなかったし、私もいつも通りに過ごしてた。」


「でもその日を境に海は私と帰ることがだんだんと無くなっていった。いつも誰か他の友達と一緒に帰ってて、私は一人で帰ってて、何でこうなっちゃったんだろうってずっと思ってた。」


「学校でも海はなるべく私と遠い場所に居るし、たまたま帰る時間が同じになった時も一人で先に走って帰っちゃったりして、全然私と一緒に居てくれなかった。正直この時はどうしてが強くて、海の気持ちが全然分からなかった。」


「学校の休み時間にたまたまバッタリあった時でさえ、海は無言で去っていってた。会釈だけして、何もなかったみたいに。今考えると本当に変な行動だなって思う(笑) ほら、あとはさ、日直がたまたま一緒の時とかも何も言わずに私の分まで全部やって一日の作業終わらせてたり。本当によく分からないことばっかりしてたよね。」


「そうした日々がなんだかんだ続いて3ヶ月近く経ってさ、私思ったんだよね。私が避けられてるなら海が避けれないようにすれば良いって。今考えるとすっごいおバカさんな考え方なんだけどさ、その時は本気でそう思ってた。だって海の気持ちとか考えが全く分からなかったから。」


「それで、その思い立った日から私は海をたくさん見つけては追いかけてた。時には通せんぼしたり、時にはタックルしてみたり。もう海が構ってくれるなら何でも良いと思って色んなことした。正直海には悪いことしてたな〜〜って今は思う。けど、私も必死だったんだ。友達を失うかもしれないって。」


「でもね、こうして海と一緒に居ない時間が増えた時にね、私、初めて他の友達が出来たんだ。仲の良い友達。それも複数人。初めてたくさんの女の子の友達が出来てその時は凄く嬉しかった。」


「初めて女の子達と外で遊んだし、初めてファッションも学んだ。それに何よりも、キラキラして見えてた遊びをたくさんした。例えば、 ゲームセンターでプリクラ撮るとか、オシャレなカフェでコーヒーフラペチーノを買うとか! あとは、写真映えするような場所でみんなで撮影会するとか!」


「もう全部全部楽しくて、新鮮だった。女の子ってこんな遊びするんだ〜〜! って(笑) ほら、私それまでホントに海としか遊んだことなかったからさ。だからオシャレとかメイクもこの時に学んだんだ〜〜。みんなが教えてくれた。あ、あとお泊まり会とかもやったよ! タコパもやったし、恋バナもした! ホントに全部楽しかった。その時の日常が吹き飛ぶくらいに。」


「でもね、だからこそ、そんな友達との話を聞いて欲しくて、私は変わらず海を追いかけてた。あの頃みたいに、いつもみたいに戻れるってそう思ってたから。」


「まあ、全然捕まえられなかったんだけどね……。海いつも逃げるのと隠れるの上手いかったから。」


「そんなこんなでさ、話さない日々が半年以上続いて、中学も受験勉強の時期になった頃にさ、海やっと私に声掛けてきてくれたんだよね。『久しぶり。勉強大丈夫か?』って。あの時は突然過ぎて本当にビックリした。ええーー!! なんで今!? って(笑) あとどうして勉強追いついてないことバレてるの!? ってなった。でも内心凄く嬉しかった。海は私のこと嫌いになったんじゃなかったんだって。そう思えたから。」


「それでさ、その日を境に段々とまた話すようになったんだよね。私達。海が覚えてるか分からないけど。たまにが時々になって、それが最近になって、中学卒業の頃にはいつもにって。また戻っていったよね。」


「私あの時、本当に毎日喜んでた。中学校卒業の前の時期。やっといつもの海に戻ってくれた! って。あのおかしな海がやっと元に戻ったって本気で思ってた。もう嬉し過ぎて私家で一人パーティーを開いてたよ。『祝! 海が元に戻りました会』って(笑) お菓子たくさん買ってきて、ジュースも買い込んで一人で食べたり飲んだりしてた。本人居ないのにね。でもそのぐらい嬉しかった。やっぱり親友は海しかいない!! って。まあ、海が話してくれない時も、『祝! 海を見つけられた会」とかやってたんだけど……。」


「まあそれはいいとして! とにかく本当に嬉しかったのは事実なんだ。今までが嘘だったみたいに楽しかった。」


「それに、海が高校一緒だって知った時はもう死んじゃうくらい嬉しかったんだ。もう胸の奥の心がはち切れそうなくらいに。本気で喜んでた。」


「それでね、だからこそね、もう離れるのは嫌だって、本気で思ったの。もう海が目の前から居なくなって欲しくないって。」


「でも、今まで通りじゃまた海が居なくなっちゃうんじゃないかって、そう思った。」


「だから、高校に入ってからは毎日学校で、海に目隠しをするようにした。毎日捕まえてれば居なくならない、見失わないんじゃないかって、そう思って。」


「きっと海は不思議に思ってただろうけどこれが理由だったんだ。ふふ、知らなかったでしょ?」


 彼女が頬えむ声を聞きながら、この行動にそんな意味があったことを初めて知った俺は妙な納得を得ていた。ずっと疑問には思っていたけど、全く知らなかったから。そして、藍はまた話始めた。


「それでね、私やっと気づいたんだ。今になってようやく。海がどうしてあの時私を避けてたのか、どうして半年も喋ってくれなくなったのか。ーー」


 俺の鼓動の刻みが早くなった。


「あのさ、あの時の事って全部私の為だったんだよね?」


 心拍数が上がる。


「私に同性の友達が居なくて、中学校に入ってから一年が経っても誰一人として友達が居なくて、出来なくて、いつもクラスの中で一人で、学校の中でも一人で居て。それで、もしかしたらその原因が自分にあって、だから私が女子から、みんなからハブられてるって。そう思ったからなんだよね?」


「私本当にバカだからさ、海にそんな風に思わせてたなんて知らなかったし気付きもしなかった。最近になって、高校生になって、ようやく、やっと気付いた。やっとあの頃のことを理解したんだ。海がしてくれてたこととその意味を。」



「あのさ、海。私さ、高校に入ってすぐにね、女の子の友達が出来たんだ。すっごく仲の良い友達。それもたくさん。信じられないでしょ? あの私に自然と友達が出来て、そういう輪に入れてるなんて。」


「もう私もその時は凄く驚いた。『友達が自然と作れるようになった!」って。もう本当に驚いてた。」


「だからその時に考えてみたんだ。どうして変われたんだろう、どうして作れるようになったんだろうって。」


「そしたら、あの時、海が居なくなった時に、仲の良い友達が出来たからだったって気づいた。ゲームや漫画以外にもファッションとか流行りとか、みんなが好きなもの、話題にするものを知って、みんなと笑って話せるようになったあの時があったからだったんだって。全部海があの時作ってくれた時間のおかげだったって。」


「もちろん、海も不器用なとこあるからさ、何も言わないで勝手に目の前から居なくなって、私だけ一人ぼっちにさせてたのは今でも酷いと思う……。」


「だけど、あの時があるから今があるのは本当で、事実だから、だから本当に感謝してるの。あの時見つけた友達の形も今は私にとっての大切の一つだから。」


「それに、あのままで居たら私きっと、海にずっと依存してた。」


「どこに居ても海を頼っていただろうし、何をする時も海が居ないと楽しめなかったと思う。頼れない時は、美味しいものも一人で食べてただろうし、何処に居ても一人な本当にダメダメな私になってたと思う。」


「でもね、でも、ずっと私寂しかったんだ。ずっと、ずっと。あの頃は本当に辛かった。海が話してくれなくて、構ってくれなくて。」


「でも、海があの日、久しぶりに話しかけてくれた日、海が私の事しっかり見ててくれてたことに気付いた時、本当に嬉しかったんだ。」


「『勉強大丈夫か?』って言ってくれたあの日あの時ね、私、初めて受験対策の模擬テストを受けて、その結果を見て、初めて自分が本当にダメなこと知った時だったんだ。もう、本当の本当に落ち込んでダメになりそうになってた。もう心も折れそうで、。もう何もかも投げ出しそうになってた。」


「帰り道も、土砂降りの中ただ一人、傘も無くポツポツと歩いてて、挙句に泣き出しそうになってて、それでもう無理、ってなりかけてた。そんな時に海は話しかけてくれた。だからあの時は奇跡とかなんかが起こったんだと思ってた。」


「けど違った。海はきっとあの時の私のことを知ってた。知らないフリしてたけど、きっと知ってた。落ち込んでることにも気づいてた。だからあの時、後ろから声かけてくれたんでしょ? 私を励ます為に。ダメにならないように。」


「その後も、時々話してくれてたのは、最後まで心折れないようにする為で、海はずっと……。」


「海はずっと私を見守っていてくれてたんでしょ? 訳を話してくれたことはないけど、そうだったんでしょ?」


「それにね、最近思い出してみたの、海が話しかけてくれなくなった日々のこと。辛かった時のことを。そしたらね、全部おかしなことばっかりだった。」


「だって今思えば、海が早く帰る日はいつも女の子の友達が話しかけに来てくれてたし、気にかけてくれてた。それに、その話しかけてくれる友達が好きな漫画とかアニメも全部私の好きなものだった。だからいつも驚きながら話してた。なんで知ってるんだろう? って。そう不思議に思ってた。」


「それに、そんな友達が段々と自然と増えていった後、その子達が連れて行ってくれた場所も私が行って見たかった場所ばかりだった。本当に、考えてみたらおかしなことばっかりだった。だってその場所を話してたのは海しか居なかったから。」


「それでさ、それもこれも全部海が私に友達ができるようにって動いてくれてたからなんだろうなって、やっと気付いたんだ。きっとそれは違うって部分もあるだろうけど、それでもそうなんだろうなって私は思ってる。」


「それに、そうしてくれたのにはきっと理由があって、それはもしかしたら、私と居ることで生まれる誤解や勘違いから出る発言を気にしてのことだったのかなって私は思ってる。きっと、私と海で行ったら色々勘違いされちゃうような場所も、私が誰かと楽しく行けるようにとかって、そう考えてたからなんじゃないかなって。私より海の方が先に少し大人になってたから、だからそう行動したんじゃないかなって今は思う。」


「だけどね、だからこそね、やっぱり寂しかったんだ。それに、やっぱり言って欲しかった。だって、失った時間は取り戻せないから。」


「ほら私たち、あの日からまたいつもみたいな関係に戻ってはいったけど、結局本当の意味で前みたいには戻れなかったから。」


「学校の帰りも、たまに寄り道して帰るくらいでお互いの家では遊ばなくなったし、休日に会う事も無くなった。お互いのプライベートな事も話さなくなって、趣味の話だけしていつも終わりで。」


「やっぱり変わっちゃった二人の関係はどうしようもなくそこに残ってた。何もかも全部元通りなんてことにはならなかった。だから私はそれに凄くモヤモヤしてた、でも海の気持ちが分からないから何にも出来なくて。だからどうしたらいいのかなんてことも分からなくて。ずっと、引きずってた。言い出せなかった。」


「それに、こういう重い話しようとするといつも海は逃げちゃうから。いつも何か理由をつけていなくなっちゃうから。」


「だから今日は捕まえたの。海が逃げないように。海と私の話をする為に。やっと気付けた私の気持ちを伝える為に。」


「だからそのまま聴いてて。_」


「あの頃に出来たもの、失ったものを確認して、やっと気づけたんだ。私の本当の気持ち。」

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