第2話 あの時とあの時の話し
「私、あの日はすっごく空が青かったのを今でも覚えてる。夏の空って感じの空。雲がごうごうとしてて、太陽が照り付けてるみたいな。」
「それでその日は引っ越し初日だったから、お隣さんの家に挨拶しに行かなきゃって両親に連れられて隣の家に行ってね。そこに居たのが海だった。」
「海は庭の日陰で漫画を読んでた。それはもう楽しそうに。だから私すごく気になって、早くお友達にならなきゃって走っていったの。そしたらね、私ね、海の前で転んじゃったんだ。覚えてる? もう顔からザザって。それで泣きじゃくって。今思い出すとドジやっちゃう所とか私何も変わってないね。」
「で、その時海が『大丈夫? これあげるから元気出して。』ってその時手に持ってた漫画をくれたんだよね。私もうすっごく嬉しくて。泣くのも辞めて漫画をずっと見つめてた気がする。それに夢中になっててありがとうって伝えたかは覚えてないんだけどね。それで泣き止んだら「後から一緒にゲームしよ」って誘ってくれてさ。その時から私達友達になったんだなって今振り返ると思う。海って小さい時から時々キザになるよね。」
(アイの話した事はもちろん俺も全部覚えている。小さい頃からドジだし、いつも気にかけてたことも覚えてる。ちなみにありがとうは言われてなかったと思う。)と思っている間にもアイの話は進んでいた。
「それでさ、小学校に入ってからは私達一緒に登下校するようになって、ますます仲良くなったよね。毎日たくさん寄り道して帰るようなわんぱくな二人だったと思う。凄く楽しんでたし、凄く大人に怒られてたな〜って。」
「あれ覚えてる? 二人で帰ってる途中土手まで降りて川遊びしてたの。あれホントに楽しかったよね。着替えとか持ってないのに二人ともそのまま飛び込んで後からたくさん怒られたやつ。もういっつも怒られるのに懲りずに毎日川遊びして、そのまま泳ぎの練習とか、何か魚を捕まえるとかをしょっちゅうやってたよね。今考えると二人ともアホだったな〜って思う。それに大体いつも私が先に入っちゃって海が仕方なく付き合ってくれるみたいな感じなのに、気づけば二人とも本気で遊んでるっていう。二人とも根っこの楽しみ方は同じなんだなって思う。」
「それからさ、海は学校の中でも私を優先して遊んでくれたよね。自分で言うのもあれだけど、私って凄く奔放な性格してるからか女の子の友達があんまり出来なくてさ。いざ女の子達の輪に入っても、全然話が続かなくて、好きな物聞かれても男の子向けのゲームとか漫画しか言わないし知らないから凄く浮いてて。だから学校の中でも海が話しかけてくれてたのはすっごく嬉しかった。本当に助かったしありがとうって今も凄く思ってる。それから----」
そこからもアイの思い出の吐露は続いていった。小学生の頃の話、中学1年生の頃の話。よくそんな所まで事細かに覚えてるなと思うくらいに鮮明な過去が呟かれていった。そして、中学2年生の頃の話が始まった。
「でさ、中学2年生の時ぐらいからさ、私達周りからおしどり夫婦なんて呼ばれ始めたよね。いつも一緒に居て、仲が良いからって。クラスも去年と同じで、席も隣で、なんかもう運命じゃん! って周りから騒がれてたよね。
付き合ってるの? とか、カップルなの? とか聞かれても海はそんなんじゃないって言ってさ、凄く否定してたのを今も覚えてる。言われる度に『友達以上の友達だから本当に何でもない。』って、そう言ってたよね。私もあの時は同じ気持ちだった。海とは友達以上の友達だけど、そういうのじゃないって。本当にいつも一緒に居たし、遊んでたけど、それって友達として、幼馴染として普通のことだって。そう思ってた。」
最後の言葉を話した時、アイの声色が少し震えていた気がした。
「そんな事がありつつもあの頃は二人いつも一緒で、帰りとかも色んなお店に立ち寄ってから帰ってたよね。帰りにハンバーガー買って食べたり、カフェに寄ってパンケーキ食べたり、あ! あと本屋に寄ったり、たい焼き買ったり! なんかもう色んな所行ってたよね。全部私のわがままで海が付き合ってくれてただけだったけど。(笑) あれ超楽しかったな〜。中学生なのに高校生みたいなことしてる感が凄く良かった。今でも海は帰りに立ち寄るの付き合ってくれるけど、あの頃はなんか別の意味で良かった。凄く無垢というか、二人とも幼い感じ。だけど背伸びしてるみたいな。というか今思うと小学生の頃から同じだね。やってること。二人とも変わってない。」
「それにね、あの頃の二人って良い意味でも悪い意味でも周りを気にしてなかったな〜〜って思うんだ。さっきも言った無垢と同じ意味かもしれないけど、ただお互い親友であるみたいなそんな感じ。誰に何言われても気にしなかったし、やっぱり海と遊ぶゲーム、海と話す漫画の事が一番楽しかったし。それを何のしがらみにも縛られず出来てたのが凄くよかった。そう思ってるのは私だけなのかもしれないけど、今はそう思う。」
「それでね、私が本当に話したいのはここからなんだ。海と私の中学三年生の時の話。今に繋がる、私達が話さなくなっていた頃の話。あの時の私の話を海に聞いて欲しいの。」
そういうとアイはおぼつかない声で語り始めた。
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