第15話

 彼と一緒に、学校に行く。

 クラスに行くとわたしが浮くので、もうクラスには行かなかった。屋上に直行。

 彼とふたり。

 座って、座学。

 彼は、なかなか筋金入りにバカだった。何も知らない。でも、どうしようもないぐらい、のみ込みも速かった。すぐに全てを学んでいく。


 施設のひとが手を回してくれていたらしく、やさしい先生がときどき屋上に来て、わたしの代わりに教えてくれたりもした。やさしい先生には、懇切丁寧に謝られた。施設のひとはすごいんだなと、ちょっと思った。


 そんなことよりも。


 職員室と彼の関係が良くなったことが、とても嬉しかった。もう彼は、先生たちにとって普通の生徒になっている。彼にとっての、普通の学校が、この屋上にある。


 演劇部のほうには、顔を出した。もうすぐ、学祭もある。


「わたしね」


 勉強している彼に、語りかける。彼は無言で、漢字の問題を解いてる。


「演劇部なの」


 他の教科はほとんどユニット取得以上のものだけど、どうしても漢字だけは、あまり覚えがよくなかった。字の作りを、位置情報だと思っているのかもしれない。


「演技とかはしないの。服が好きなの。演劇部にいれば、いろんな服が自由に着られるから」


 彼。制服の漢字と格闘している。制は書けたけど、服がなかなか書けない。


「もうすぐ、学祭なの。楽しみにしててね。着る服、選んでるから」


 彼は、服でわたしを判断する。だから、なるべく綺麗な服で。彼にわたしを、認識してもらおうと、思ってる。


 先生が大挙して漢字を教えに来たので、屋上を離れて演劇部へ。彼は、先生の間でも人気者になりつつある。それでよかった。この学校にも、彼の居場所はある。

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