第14話

 目が覚めた。

 部屋。外。夜。天井。ここは、部屋か。

 ゆっくりと、思い出していく。屋上。椅子に座って。背もたれ。いや、ここはベッド。


 そう。彼女。彼女に自分の話をして。


「起きた?」


 彼女がいた。

 ベッドに腰かけている。


「どうして、ここに」


「一緒に連れてきてもらった。カジュアルな服の人と、スーツの人に」


 施設の人間か。


「何か、言ってたか?」


「やさしくしてあげてくださいって。おねがいされた」


「なんだそれ」


 そんなことより、彼女を家に帰すほうが先だろうが。なんで部屋に入れた。


「わたしの話を、してもいい?」


 ベッドに腰かけている彼女。顔は、見えない。


「わたしね」


 夜。街の明かりだけが、部屋を照らしている。


「顔が良いの」


「ふふっ」


「ねぇ。笑うところじゃない」


「すまない。何を言うかと思ったら、自分の顔を自慢するとは思わなくて」


「そうよ。自慢。わたしは顔が良いの。あなたも顔目当てでしょ?」


「いや。正直に言うとおまえの顔をよく知らない」


「うそ」


「いや。ほんとに。制服の色の違いしか見てないし、それでしか判断してない」


「うそ、でしょ?」


「本当だが」


「きずつく」


「すまない」


「え。あなたの話がすごいのに、わたしの話ぜんぜん凄くないじゃん」


「すまない。話の腰を折ってしまった。続きを」


「この雰囲気で?」


「どうぞ。もう笑わないから」


「はぁ」


 彼女が話しはじめるのを、待った。


「わたしね。顔が良いの。最初は、母親だった。だんだん、おかしくなってくの。だから、早めに家を出て、今はひとり」


 顔か。


「学校でも、同じ。人が寄ってくる。みんながみんな、わたしの顔目当て」


 人気者の顔なのか。ぜんぜん分からなかった。


「だから、あの学校に行ってるの。ユニットさえ取っておけば。クラスで人気者になるのだけ避けておけば。普通でいられる。ついでに、頭もよかったから。超俊秀待遇。学食のサンドイッチも無料」


「そうか」


「でも。正直。普通じゃないなって。思ったの。いつか誰かにつかまって、殺されたりするのかなって。思ってた。ほら、あるじゃない。きれいなひとをつかまえて殺してコレクションするみたいな」


「映画の中の話だな。そんなものは存在しない」


 というより、存在しないように施設の人間が研究していた。おそらく、そろそろ実装される頃だろう。


「でも、言われちゃった。あなたは、普通です、って」


 ここまで運んできた、施設の人間に言われたのだろうか。


「言われて、どう思った」


「ちょっと残念だけど。安心した。普通の人なんだなぁ、って」


「そうか」


「ねえ。わたしが隣にいてあげよっか?」

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