第13話

 眠っている彼を、自分の部屋に連れていくことにした。

 職員室に行ったけど、彼を背負っているだけで、あまり良い顔はされなかった。やさしい先生から、彼はやめておきなさいとか言われたりもした。それで、彼の言ったことが本当なのだと、分かってしまった。彼は何もしなくてもユニット取得扱いだから、教師は彼をばかにしている。

 彼の部屋も、彼の行き先も。教えてもらえなかった。


 しかたなく、彼を背負って。


 学校を出る。


 車が1台。ひとが出てくる。カジュアルな服の人がひとりと、スーツがひとり。警察みたいなよく分からない、あのドラマでよく出すやつ。本当にあるんだ、あれ。なんかちょっと得した気分。


「この車へ。どうぞ」


 言われるままに、車に乗る。


「第3拠点に」


 車が、走りはじめる。


「あの。どこへ」


「安全な部屋です。彼がどこでも休めるように、この街では24ヵ所に設置してあります」


「そんなに」


「彼は、この国だけではなく、世界において比類なき貢献をした一人です」


「でも」


「はい。彼は、方向感覚を失っています」


 会話の内容も、聞かれている。たぶん、そうなんだろう。


「彼には、自由に生きて、自由に死ぬ権利がある。これは、施設の方針でもありますが、私達の願いです。彼が自らの意志で命を終わらせようとするとき、我々は一切その妨害を行いません」


「だから、彼のお友だちも」


「目の前で死ぬ。それによって、彼が深みに落ち込むのを防ぐ。そういう目的でした。銃を供与したのは我々です」


「ひどい」


「はい。とても」


「でも。あなたたちだって」


「我々も、元々は研究に協力する立場の。特殊能力を持った側の人間でした」


「そんな」


「子供が成長するにつれて幽霊やお化けを見なくなるのと同じように、運よく特殊能力を成長と共に失ったのが、わたしたちです」


 カジュアルな服の人。スーツの人。ふたりとも、なのか。


「彼は、わたしたちで。我々は、彼らなんです。だから、色々と。わかってしまう」


「ごめんなさい」


 どうしようも、なかった。


「わたしたちから、お願いがあります」


「はい」


「どうか、彼に。やさしくしてあげてください」


 本当に。

 どうしようもなかった。


「大丈夫です。あなたは、ただ顔が良いだけの、一般人です。大丈夫」

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