第11話
物心ついたときから、ずっと施設にいた。
全員が施設にいる意味を知っていたし、その上で研究に協力していた。理解していなかったり研究を拒否した人間は、普通に施設を出ていく。そして出ていったところで、安全も将来も保障されている。単純明快に、利益が大きいから。普通に生きるだけでも、なにがしかの大きなプラスが得られる。そんな性質を持った人間の集まり。
そういう場所で生きてきた。
自分には、空間と位置を正確に感じとる力があった。多少の薄い壁なら、その先の空間に関しても分かる。海底の情報把握や、上空の航空防衛関連。そんなことに協力しながら生きてきた。
そんななかでも、おかしくなるやつは、いる。研究に全てを捧げすぎたり、見知らぬ誰かを助けようとしすぎたり。よく分からない、何か深いものにとらわれたり。
学問に関して研究を行っていたやつがいた。防空システムの設立で、そいつと研究していたとき。そいつは、おかしくなった。知識の先にある何かに、ふれてしまったと言っていたか。
おれの知識の先には、何もない。おまえは、ばかでいろ。知識に足を踏み入れるな。そいつは、俺にそう言い残して、死んだ。銃で頭を撃って、自分の手で脳を引きずり出してたっけか。どろどろになった脳漿が、そいつの頭から流れ続けていたのを覚えている。
そいつの言葉を、俺は守った。防空システムの構成に関する部分には一切触れず、自分の能力だけで協力を行いシステムを構築した。そのシステムで、航空の事故はなくなったらしい。だから空を見る度に、そいつのことを思い出す。そいつの、死んだ姿を。死に方を。
そして、俺も。
おかしくなった。
宇宙に関する空間情報把握で。たぶん、情報量に脳が耐えきれなかったんだと思う。自分の脳を引きずり出したあいつの気持ちが、少しだけ分かった。
ばかだったから、助かったんだと思う。
知識がなかった。
空間把握能力が、おかしくなった。
言っても理解されないだろうが。頭のなかに、不規則なブラックホールがある。そしてそれが、ぐるぐると不規則に回っている。そんな感じがしている。いつも、そうなっている。
どこにも、辿り着けなくなった。
地図を見ても、まっすぐ歩けない。
目的の場所に、向かうことができない。
右と左が、しょっちゅう入れ替わる。
使い物にならないので、施設からは自分で出ていくことにした。それでも、警護とか、無制限のクレジットとかはある。今も、たぶん。どこかで誰かが俺を見ててくれてる。だから、まぁ、ばかでも生きていられる。
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