第7話
なぜだろうか。
彼女の前だと、敬語が崩れる。初めて話をしたときも、そうだった。雰囲気が、そうさせるのだろうか。かといって、会話に気を遣いながらサンドイッチを分解するのは、それはそれで手間がかかる。
少しの間、喋らずにサンドイッチを分解して、再構築することに集中した。具材が良いのに、組み合わせがおかしい。
「よし」
できあがった。再構築完了。
「どうぞ」
片方を、隣に座っていた女に渡す。渡すタイミングで気付いたけど、いつの間にか隣に座っている。なんだ、この女。
「いやいや。おなかすいてるんでしょ。ふたつとも」
「いや。これは」
お礼に。
彼女が、再構築サンドイッチを受け取る。よし。それでいい。
「いただきます」
女が、びっくりしている。
「い、いただき、ます」
同じように言った。なんだこの女。
「えっなにこれ」
サンドイッチを食べた女が、びっくりしている。感情がせわしないのだろうか。
「なにこれ。いつも食べているサンドイッチじゃない。おいしい」
「具材のバランスがおかしかった」
あ。
「です」
敬語。
「えへへ。話しやすいようにしてくださいよ。わたしもそうしますから」
サンドイッチをおいしそうに頬張りながら、彼女が言う。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
サンドイッチ。うまい。いい具材だった。
「ごちそうさまでした」
美味しいものは、すぐなくなってしまう。サンドイッチひとつだけでも、ありがたかった。何も食えないよりはいい。どうせ食えないなら、何もいらない。
「あの」
「サンドイッチのお礼か?」
「うん」
何をさせるのだろうか。個人的に、サンドイッチの再構築で、義理は果たしたと思っている。いつもより美味かっただろうし。
「わたしの制服について。きかせて」
「きかせてと言われても」
色が違うとしか。
「色が違うって、言ったよね?」
「言った」
「どう違うの?」
「他より色が深い」
「うわぁ」
嬉しそうにしている。これで、よいのだろうか。楽しそうにしているから、いいか。
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