第5話

 制服を目印に、ここまで辿り着いた。

 それは正直に言った。しかし、制服の色味が違う理由なんて聞いても、どうにもならないだろうし。言いかけて、やめた。この女も、しばらくしたらクラスに向かうだろう。行き先があるのは、よいことだ。自分には、その行き先がない。どこへ行っても、知らない場所で。どこにも、行き先はない。初めから。向かう先なんて。存在しない。


「よいしょ」


 女が、隣に座った。


「なんでもないんですか。ほんとうに?」


 何かを、いて欲しそうな。そんな雰囲気。


「制服の」


「制服の?」


 どうやら。さっき言おうとしたことと、相手の求めている発言が、同じらしい。


「制服の色が、他と違った。だから、目印にした」


「目印。目印かぁ」


 違ったらしい。


「でも。制服の色が、違うって。気付いたんだ」


 何が、言いたいのだろうか。クラスにも行かず。ここで自分と喋っている。その理由は。


「嬉しいです。ありがとう。誰にも気付かれたことがなくて」


 それはないだろう。ちょっと注意して見れば、色が違うことぐらい、すぐに分かる。


「あ。クラス。じゃあわたしはここで」


 女。立ち上がって、階段を駆け上がっていった。自分ひとりだけ、目的もなく、取り残される。

 女の顔。なんとなく、思い出す。綺麗な顔だったような、気がする。どうでもよかったので、あまり覚えていない。制服の色味だけが、まだ。記憶に残っていた。

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