第12話 LGBT恭香と息子友哉との関係性
やはり、ニューハーフいやLGBTには胡散臭さがつきものである。
NHKEテレは、それを一種の身障者と捉え、なんとか差別をなくそうとしている。
ひとつは、行き場のない人を自分の都合に利用、いや悪用してやろうとする大人にも原因があるのだが、やはり家族にさえも受け入れてもらえないという、孤独感と寂寥感という精神の弱さが、根本原因になっているのだろう。
一度、友哉に問いただす必要がある。
友哉には、取り返しのつかない道を歩ませるわけには、いかないのだが。
おかんは俺と別居して、おばあちゃんに面倒をみさせてるくせに、こういうときだけはでしゃばってくる自分勝手な毒母だと、疎ましく思われるかもしれない。
しかし、なんと思われても構わない。
殴ってでも、友哉の人生の方向性を狂わせたくない。
二度と、会ってもらえないかもしれない。
私は覚悟を決めて明日、友哉と氷室の関係を問い正すつもりでいた。
仕事が終わり、さっそく友哉に会いに行った。
今度は、祖母の自宅ではなく、氷室と偶然会ったカフェで待ち合わせをしていた。
友哉は、約束の時間より前に待っていた。
テーブルには、リボンを掛けた包みが置いてある。
「おかん、もうすぐ誕生日だろう。これ、俺と恭香からのプレゼント」
友哉は、氷室を恭香と呼び捨てにした。
もう深い関係なのだろうか。ひょっとして、まさか肉体関係があるのでは。
ホモ、エイズ・・・救いのない、いかがわしい言葉が私の脳裏をかけめぐり、一瞬私は脳の思考回路が止まり、顔が真っ青になった。
「どうしたの。おかん、真っ青だよ。何かあったの?」
友哉は無邪気な表情で、私を気遣ったが、その屈託のなさにめくら蛇怖じず、世間知らずの向こう見ずの未成年の無鉄砲さが伺える。
「ありがとう。ところでどうしても、聞きたかったことがあるんだけど、氷室さんとはどういう関係なの? ただの友達?」
友哉は、きょとんとした顔で答えた。
「ただの友達だよ。それともおかん、まさかホモ関係があるとでも思ってるの?」
「いや、そんなつもりで言ったんじゃないよ。氷室さんは、通信制高校に通ってるっていうけど、普段は何をしている人なの?」
友哉は、不快感をあらわにした。
「なんだ、恭香とは付き合うなとでもいうつもりかな。ニューハーフが伝染するとでもいうのかい?」
ニューハーフといっても、いろんな種類がある。
椿姫彩〇のような性同一性障害の場合もあれば、単なるおかま(昔の呼び名)のような、趣味嗜好からきているケースもある。
しかしどちらも、マスメディアに登場している華やかなタレントを除いては、世間的にはあまり認められていないのが現状である。
事実、一昔の話であるが、大阪市内の福祉施設では、性同一性障害の男性が解雇されたという実例が報道されている。
都会の福祉施設でさえ、こんなことがまかり通るということは、地方でも当然そういった差別があるだろう。
「伝染病じゃあるまいし、それはないわ。しかしああいう人は、悪い大人に騙されてエイズになったりするケースも多いのよ」
「エイズというのは、性行為によってしかならないよ。確かに潜伏期間が三十年なんていう実例もあるけど、俺が恭香とそういう関係があるとでも思ってるの」
「いや、そうとは断言してないわ。ただ、私は友哉が心配なだけよ」
そういって、私は友哉に椿姫彩〇が性別を偽り、キャバクラで働いていたという記事の載った写真週刊誌を渡した。
「誰がなんと言おうと、恭香はいい奴だよ。世間の連中は、みなあいつを誤解していて、さらし者にした挙句、金儲けの材料にしようと企んでるんだ」
「友哉、学校に友達とかいるの? クラスメートとはうまくいってるの?」
「ご心配なく。クラスの奴らとは適当にやっているよ。あいつら、ゲームの話と、勉強を教えるとすぐ乗ってくるから。でも誘われても麻雀とかはしないよ」
「友哉は、成績がいいからかえって妬まれたり、悪党に利用されたりしないかと、逆に心配なのよ」
友哉は、猛然と反論した。
「おかんは相変わらず心配性だな。その悪党の張本人が、恭香とでもいうつもりなのか? 恭香はそこらへんの女よりも、心身ともによほど女らしいよ。
言葉遣いも丁寧で、仕草は日本舞踊を習ってただけあっておしとやかで、身のこなしも上品で、いつもきれいにおしゃれして、間違っても下品なへそ出しルックなんかしないで、男みたいな女というよりは、女らしい男と一緒にいる方が、よほどマシだよ」
私は、友哉からはじめて聞く友哉流の女性論に、目を丸くしながら聞いていた。
開いた口がふさがらないというのは、このことだろう。
なんて返答したらいいのか、わからない。返す言葉が見つからない。
ただひとつ言えることは、友哉は私の全く知らない、別世界にいこうとしているということだった。
そしてその世界は、私には到底想像も及ばない、手の届かない世界だということだった。
私は、一度氷室恭香に会ってみる必要があると思った。
もちろん、友哉に近づかないでくれなんていうつもりはない。
しかし、私には想像のつかないLGBTの世界、それに友哉が巻き込まれるとしたら、親として黙認するわけにはいかないのだ。
黙認というのは、未成年の場合、ネグレスト(育児放棄)ということになってしまい、結局は保護者である私の責任になりかねない。
なんといっても、友哉はまだ中学三年生である。
多感で、傷つきやすい年ごろである。
この世代の子は、友達次第で良くも悪くもどうにでも変わるものなのである。
友達の輪のなかから、はみ出さないために麻薬に参加する子もいるという。
そうなったら立派な犯罪者である。
以前ドキュメンタリーで見た少年院の実態という画面が、頭にこびりついている。
いずれも、友哉と同じくらいの子ばかりである。
友哉くらいのティーンエイジャーは、自分に愛想よくし、そのうえ自分の都合にあう人を「いい人」認定し、その人のいいなりになってしまうということがしばしば見受けられる。
特に女性の場合、男性にやさしくされれば好きになり、さりげなく結婚をちらつかせて、性交渉に持ち込み、避妊は拒否して代わりに低温ピルを飲ませ、妊娠した途端に中絶をせまる。
結局泣くのは女性の方である。
まあ、昨今は女性は泣き寝入りなどせず、ネットでLINEの一部始終を公開するというが。
友達次第で麻薬にまで手をだし、気が付けば犯罪者になってしまうということはありかねない。
しかし、そのギリギリ一歩まで行く前に、寸止めするのが家族である。
外で怪我をして帰ってきても、治療するのが家庭である。
以前、ドキュメンタリーで見た少年院の実態という画面が、頭にこびりついている。
いずれも、友哉と同い年くらいの子ばかりである。
やはり、友人の影響で暴走族に入った、暴走族で自分はリーダーになり、敵対するチームに刃物で対抗しているうち、なんと刺した相手が反社の組長の息子であり、命を狙われる羽目になったという二十歳過ぎの男性。
愛する男性を守るため、恐喝まがいの窃盗をした。
彼氏の生活を捧げるため、盗撮をした。
俺を理解してくれる人を立てる為、覚醒剤の販売をしていたなどというパターンもある。
私の体験でもあるが、友哉と同い年くらいの未成年者は、自分の話に耳を傾け、理解したかのようにうなづき、一見華やかにみえる大人の世界を披露させてくれる大人を、いい人であるかのように崇拝し、その人のようになりたいと憧れ、ついていく。
しかし、このことは反社でも使う、人を利用、いや犯罪に悪用しようとする常套手段の罠である。
今、友哉がその罠にかかろうとしているのではないか。
私は心臓が飛び出しそうな、恐怖にも似た焦燥感にかられた。
翌日、私はいつものように、中華料理店のチェーン店に出勤した。
ギャンブル狂で借金を抱え、健康保険証まで取り上げられたという新任店長が私を呼び出した。
「川島さん、あんたこの前、料理を客にかけただろう。私は実はそのときの客から脅されて困ってるんだ」
えっ、私は思わず絶句した。いやするしかなかった。
「昨日、そのときの客が帰り道、私を駅前で待ち伏せしてたんだ。
そして、この前の一件で話があるから来てくれと、その客の自宅まで呼び出され、私はそこで土下座まで強要され、慰謝料を払えと言われて困ってるんだ。
まだ本社には通告していないが、川島さんにはその責任をとって辞職してもらう」
確かに、私は一週間前、足を滑らせ料理をこぼしてしまったが、客には一滴もかからなかった。
しかし、それを細工したのは田川である。
しかし、その一件は私が平身低頭あやまったおかげで、快く帰っていったじゃないか。
それを一週間たった今頃になって持ち出すなんて、少々矛盾が感じられる。
その客は、結局金目当てでその話を持ち出したのであろうか。
証拠がないので、真相は藪の中でしかない。
「これから、エリアマネージャーがくるので、川島さんは証拠書類として、誓約書を書いてもらう」
雇われ店長は、ずいぶん一方的な言い草をする。
しかし、私は所詮アルバイトの身の上である。
解雇を覚悟の上で、ことの成り行きに参加しようと思った。
しばらくして、エリアマネージャーがやってきた。
ことの顛末を店長から聞いたエリアマネージャーは、一見優しそうな諭すようなもの言いで私に尋ねた。
「私は店長より、偉い立場の人間だ。ところで、あなたは一週間前、麻婆豆腐を客にかけたというのは認めるな」
私はうなづいて言った。
「かけたというよりも、偶然そこを通りかかった人に、かかってしまったのです」
「店長はそれが原因で、今脅されている。自宅まで連れ出され、金を要求されているというらしい」
なんだか、反社が絡んでそうな話である。
そういえば昔、この中華料理屋が反社とトラブルを起こさないのは、もっと上の反社とつるんでいるからであるという話を耳にしたことがある。
私は怪訝そうに言った。
「それ、本当なんですか。じゃあ、その客を今、ここに連れてきて下さい」
店長は、少し戸惑ったが勝ち誇ったかのように言った。
「なにを言ってるんだ。そんなことできるわけないだろう。
エリアマネージャー、店長である私の言うことは真実です。
私が店長として活躍できるのは、エリアマネージャーのお力添えのおかげです。
そんな私が、嘘でたらめを言うはずがありません」
エリアマネージャーも店長に向かって、満足そうに答えた。
「そうだ。私も店長を信用しているから、新任店長に抜擢したんだ。
あなたのミスは私の責任になる。私の顔に泥を塗るようなことだけはしないと、確信しているよ」
二人は、麗しい信頼関係で結ばれているかのようだった。
エリアマネージャーは、私の前に便箋を置いた。
「川島さんだっけね。あなたは、この店舗に迷惑をかけたので、誓約書を書いてもらう。了解ですね」
私はなんとも答えられずに、沈黙を守っていた。
「もし、誓約書が書かねば、あなたは名指しでチェーン店全店に、詫び状を書いてもらうことになるが、私もそこまでして、アルバイト店員でしかない川島さんに、恥をかかせたくないんだ」
ガーンとショックなことを言って脅し、相手の精神に爆弾を落としたあと、さも私のことを思いやるふりをして、自分のいいなりにさせる。
まるで昔の反社のやり口である。
私はエリアマネージャーが差し出した便箋を前に、ペンをとった。
「さっきも言ったように、私は店長より偉い立場なんだ。決して悪いようにはしない。だから私の指示通りに書きなさい」
私は、その言葉に従うしかないと言った。
「私は〇月〇日、麻婆豆腐を客にかけて、白いワンピースに染みにつくり、多大なご迷惑をかけました。それが原因で、店長は現在、暴力行為及び恐喝まがいの被害を受けています。そこで、私のどのような処分も受ける覚悟でいます。
〇月〇日、〇市〇町1-1-1 〇店アルバイト店員 川島友里」
そして、名前の後ろに拇印を押すように命じられた。
エリアマネージャーは、満悦したように言った。
「さあ、これであなたは、この店舗に必要のない人間になった」
私は、おそるおそる尋ねた。
「あのう、それはもう解雇ということでしょうか」
「その通りだ。あなたの役目はもう終わったんだ。これ以上、この店舗に迷惑をかけないでほしい。最後に、この店長にお礼を述べなさい」
私は、納得のいかないまま、一礼してその場を立ち去った。
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