25 ~風邪の少女~ KAZE









 うっすらとした意識が明瞭めいりょうになり、自分がウトウトとした状態でベッドに横になっていたのを自覚する。


 重たい頭を持ち上げ、ぼんやりとしたままの視界で隣の部屋を覗く。


 開いたふすまの向こう、居間いまはりに掛けられたアナログ時計の歯車が一定のリズムをきざむ音が聴こえてくる。

 二、三まばたきをしてピントを合わせた網膜もうまくとらえたのは、午前ごぜん十一時過ぎを示す長短二つの針。


「お昼前、か」


 思ったよりも長い間、私はベッドで眠っていたらしい。


 独りちた声は、微かにしゃがれていた。

 寝汗ねあせ等で水分が減っているのだろう。


 せきをするように小さく喉を鳴らし、水を求めて居間に出たところで、ピポーン、という間抜けな呼びりんの音が鳴らされた。

 この家の呼び鈴は、ボタンを押し込んだ時と離した時の二段階で音が出るから、初めておとずれた人間の場合は大抵このような鳴らし方になる。


 この時間に来るということは、郵便局の人か、いや、この鳴らし方ならばセールスか。


 対応が面倒な相手であれば厄介やっかいだ。

 アパートの共用廊下、外に居る人物に聞こえるようにき込み、病人であることをアピールしながら、鍵を回しドアを開ける。


「ごほっこほ……はい―――」


 少しまぶしい外の光と共に目に入ってきたのは、最近見慣みなれるようになったあい色の上着に、臙脂えんじ色のすそをしつらえた白いスカートだった―――――




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る