24 ~騒常の少女~ SOUJOU



 昨日突然とつぜん降り出した雨は、よる寝る前にはほとん霧雨きりさめになっていて、今朝けさは気持ちの良い朝日がカーテンの向こうに覗いていた。


 登校してすぐ、下駄箱で靴を履き替える小鞠こまりちゃんを見付けていつも通りスキンシップをやり合う。

 今日はおでこが痛い。


 一時間目の英語の授業を終えて、十分じゅっぷんの移動休憩時間で小鞠こまりちゃんと廊下に出る。

 三年生の教室がある二階の階段の踊り場でいき抜きの雑談をしていると、三階から体操服に着替えた一年生の男子達が階段を降りてきた。


 小鞠こまりちゃんと交わす会話の隙間すきまで、一年生達が話す声が聞こえてくる。


「ちくしょー。さっきの数学すうがくの授業、東京とうきょうが休んだせいで俺まで先生に当てられちゃったよ」

「まあ風邪かぜじゃしょうがないだろ。にしてもドンマイだな、の数の割り算とかドンピシャでお前の苦手なとこ当てられるなんて」

「―――そこの


 反射的に振り返り、会話をしていたであろう抹茶まっちゃ色のラインが入ったジャージを着た男子生徒二人組にめ寄る。


「――きみ!! 深輝みきちゃんがお休みって本当!?」

「えっ!? あんたダレ……いや、誰ですか?」


 肩を掴まれた男子生徒は、あたしのスカートの臙脂えんじ色のすそを見て、タメぐちになりかけた口調を敬語に直す。

 だが、そんなことなど気にも留めず、あたしはなおも後輩の男子生徒を問い詰める。


深輝みきちゃんなんでお休みなの?」

「ミキ………? って東京とうきょうの事ですか? 東京とうきょうなら、今日は風邪で病欠だ、って中辛ちゅうから先生が———」

風邪かぜ…………?」

「はい……えっと、もういいですか?」

「……うん……」


 男子生徒はおそる恐るといった感じであたしから体をはなし、もう一人の後輩男子と一緒にそそくさと階段を下りていく。


「(何だったんだ今の……)」

「(ほらあれだろ、この中学きっての変人へんじん問題児っていう先輩の——)」


 その男子生徒達とれ違いで、次の授業の道具等を抱えたすすまみれ白衣の叶恵かなえ先生が階段を上がってくる。


叶恵かなえ先生! あたし行きます! ………えっと緊急招集で。だから休みます!」

「は? なんだ急に。魔法少女の出動要請ようせいがあったのか? ……だがディザイアーが出現したという連絡は………」

「え、えっとおもてった召集は出来ないから、皆にバレてるあたしが呼ばれました!」

「………」


 戸惑いと疑念の色を顔ににじませる叶恵かなえ先生は、あたしの背中越しに望む小鞠こまりちゃんを見る。


「そうなのか? すぎ

「さあ〜〜。あったんじゃないですか?」

「………。そういえば先程、東京とうきょう深輝みきがどうとか話していたようだが………」

「あ……いや、いえ出動要請です!」

「…………」


 叶恵かなえ先生は再び小鞠こまりちゃんを見遣みやり、次いであたしの顔を見てため息をく。

 そして厚ささんミリのタブレットを持ったままの左手で両の目頭を押さえ、少し押し黙ったかと思うとまた息をいた。


「……はぁ………分かった。ならそのへ急いで出向しろ。くれぐれも目立つようなことをするんじゃないぞ―――」

「ありがとうございます! 行ってきます!!」


 目元を押さえたままの叶恵かなえ先生にお礼を言うと、一目散に教室へ向かいかばんを持って校舎を抜け出す。



「………まったく、目立つなと言ったそばから騒々そうぞうしくする奴があるか…………………」

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