# 〜夢中の懐古〜



 女の子がいている。



「えーーんえーーん」



 あれは、あたしだ。

 何か気に入らないことがあったのか、あるいはこわい思いをしたのか。絵に描いたような泣きじゃくりっぷりだ。


「どうしたの、灯成。そんなにかなしい顔をしちゃって」


 どこからか、優しい声が聞こえる。


「ほら、そんなに顔をくしゃくしゃにしちゃったら美人さんが台無しだよ」


 お気に入りのハンカチを取り出してあたしの顔をぬぐってくれるその人は、とても優しい笑顔だった。


「大丈夫。どんな悲しいことも怖いことも、たとえ何があったとしても、笑っていたらその笑顔が力をくれるから」


 あたしの涙で湿しめったハンカチを、あたしのスカートのポケットに入てくれる。「いいの?」ってあたしが聞くと、「あなたが笑ってくれるなら、喜んで、あげるわ」とその人は言う。そしてあたしのほっぺたを温かい手でこねくり回し、小さいあたしと同じくらいの、子供のような満面のみであたしの瞳を見つめてくる。


「ほら笑って。私は灯成の笑顔が、この世界で一番大好きなのよ。私の笑顔の源は、あなたなんだから」




灯成ともな

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