Mad Scientist(3)

 この実験は代償を負うこととなってしまった。

 彼らを再び拘束しようとしたのだが、私ひとりでは無理だった。


 そのため、研究室の学生に手伝ってもらうことにした。

 選んだのは、元レスリング部だったという体格の良い学生だ。

 彼は10万円という金額で仕事を引き受けてくれた。

 もちろん、この中には口止め料も含まれている。


 彼は地下室に入ると多少の驚きを見せたが、特に何も言うことはなかった。

 彼に手伝ってもらい、ふたりに拘束具を装着して、ケージから移動させることに成功した。


 しかし、彼が余計なひと言を口にした。


 あと50万ほしい、と。

 追加で50万くれないのであれば、ここで見たものをすべてバラすと脅迫してきたのだ。

 50万ぐらいであれば、払えなくはない金額だった。


 しかし、私は彼を許せなかった。信頼してお願いしたのに、その信頼を裏切るとは。

 研究の邪魔をする人間は必要ない。

 私はそう判断した。


 彼女のシャツは汚れていた。もう一か月近く彼女は同じシャツを着ていた。

 だから、彼女のシャツを着替えさせたいと、彼に伝えた。


 もし、それを手伝ってくれるのであれば、あと100万出してもいいと。

 最初は100万という金額に警戒をしていた彼だったが、150万に値を吊り上げるとすぐに彼は引き受けると言った。金に目がくらんだバカだった。


 彼は彼女のシャツを脱がす際に、首を噛まれた。

 彼女の猿ぐつわを緩めておいたのだ。


 彼はあっという間に感染者となった。

 彼のことは、強欲と呼ぶようにした。

 彼にはふさわしい名前だと我ながら感心した。


 こうして、研究室の地下には3体の実験対象が手に入った。

 この3体が、その後の私の実験を大いに飛躍させた。

 この3体がいたからこそ、私の実験は成功したのだ。


 マッド・サイエンティスト。

 私の研究成果を報告した論文を読んだ人間が口にした言葉だった。

 それは私にとって、褒め言葉だった。


 たしか、検察官もそのような言葉を口にしたはずだ。

 いや、検察だけではない。最高裁の裁判長も言っていた。


 そう、私はマッド・サイエンティストなのだ。



 明智欣也は、ひとり笑っていた。

 非常ベルが鳴り響く東京拘置所の独居房で。



 第一部 完

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