🔴大学時代の友人Aさんから聞いた話です。


昔からAさんは怖い話が好きで、大学では心霊サークルに入っていました。


心霊サークルといっても、ホラー映画を観たり、夏に肝試しをしたりする程度のかわいいものだったのですが、たまに旅行がてら心霊スポットへ行くこともありました。


行く場所は、おもにYouTubeなどで知った、廃墟や空き家、たまにトンネルといった調子。


すでに動画を視聴済みですから、どんな場所かはだいたいわかっているものの、いざおとずれると、意外に怖かったりするのです。


そんなわけで、Aさんはいつも楽しみ半分、怖いもの見たさ半分で、毎回参加していました。


あれはAさんが大学3年のとき。


YouTubeで『自殺の名所』と紹介されていた、ある港へ行くことに。


参加メンバーは、心霊サークルの4人。


行ってみると、昼間で良い天気だったせいもあるでしょう、うちよせる波はおだやか、潮風も気持ち良く、ここで自殺する人がいるとは到底思えない場所でした。


4人ともガッカリしたのは言うまでもありません。


俳優出身のYouTuberは「怖い! 怖い!」と連呼し、海を見ては「引き込まれそう!」と叫んでいたのですが。


とはいえ、せっかくなので海をバックに写メを撮ろうという話になりました。


ただ、全員の集合写真を撮るのであれば、誰かにお願いしなければなりません。


自撮り棒など、かさばるものを持ってくるメンバーは一人もいなかったので。


どうしようかAさんが思案していると、埠頭に係留された漁船の1隻に、漁師さんが乗っているのに気づきました。


70歳くらいでしょうか、白髪がほどよく混じって銀髪に見える、日に焼けた男性。


漁船は少し離れていたので、Aさんは漁師さんに聞こえるよう、大声で頼んでみました。


しかし残念ながら、手を横に振って、断る仕草をされました。


考えてみたら当然です。


海バックにAさんたちを撮るなら、漁師さんはわざわざ船から降りなければなりません。


何か作業をしていたみたいですから、仕事のジャマをしてしまったのでしょう。


Aさんは「すみませんでしたー!」と謝り、全員が写るよう、腕をいっぱいに伸ばしてなんとか写し、宿へ帰りました。


その夜。


昼間の港があまりにも怖くなかったので、もう1回おとずれる気になったAさん。


夜ならば雰囲気も変わり、心霊スポットらしい怖さを味わえると考えたからです。


しかしサークルの残り3人には、「疲れた」「眠い」「風呂に入ったから外へ出たくない」と断わられてしまいました。


そんなわけで、Aさんは1人で行く羽目に。


旅館から港へは、歩いて10分ほど。


地方の漁村ですから、街灯などありません。


その日は、月も出ていませんでした。


旅館の人に貸してもらった懐中電灯だけが頼り。


夜の埠頭は真っ暗でした。


コンクリートに星の光がかすかに反射して、5メートル四方がなんとか見える程度。


懐中電灯がなかったら、黒い海へ落ちていたかもしれません。


これは確かに怖いな、そんなふうに思っていたところ、すぐそばの漁船の甲板に気配を感じました。


おそるおそる懐中電灯を向けると、あの漁師さんです。


「昼間は、仕事のジャマして、ごめんなさい!」


Aさんはあわてて頭を下げました。


すると漁師さんはニッコリして、近くの海面を指差します。


「え? なんですか?」


漁師さんの指差す方へ、何気なく目を向けたAさん。


1メートル四方でしょうか、海面に白いボードが浮かんでいるのが見えました。


波に合わせて、ゆらゆら揺れています。


そのうちボードと思ったものが、じつは自動車の屋根であるのに気づきました。


白い車は揺れながらも、徐々に徐々に沈んでいきます


Aさんは急いで110して、警察へ連絡。


まもなく警察とともに、レスキュー隊も到着しました。


すぐさま救助が開始されましたが、車の中から見つかったのは、残念ながら死後数ヶ月以上たった遺体だったそうです。


Aさんが旅館へ帰ることができたのは、朝の10時過ぎ。


「いや、事情聴取されて大変だった。昨日、写メを撮ってくれって頼んだ漁師さんがいるじゃん? あの人に教えられて振り向いたら、死体の乗ってる車が浮かんできて……」


しかし、メンバーはけげんそうな顔。


「漁師さん?」


「なんの話?」


「そういや、あそこの港でおまえがなにか叫んでて……」


一応、心霊サークルですから、残り3人はすぐに察したようでした。


Aさんもハッとします。


「あの漁師さんって、もしかして……」


ちなみに埠頭で撮った集合写メですが、後ほど見返すと、何も写っていなかったそうです。







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