第78話 懸念
「享護、真護、ちょっと落ち着け。お前ら、一回、外で頭冷やしてこい」
「うん、ちょっと行ってくる。小野の子のことは、東条も絶対に手伝うよ」
「僕は、ふーちゃんについていくから、明楽君を一緒に守るから」
例によって、父様が面倒くさそうに言ったので、東条親子がぐすぐすと鼻をすすりながら、外に出て行った。その様子を、皆のなまぬるい視線と、三対の丸くて黒い柴犬めいた目が見守った。
「何ていうか、東条って、うちより風の気質の強い家だよね」
峰守お爺様が、呆気にとられたように仰った。東条は、本能の赴くままに生きている一族だからね。感情も、なんら取り繕うこともなく、ストレートに表現してしまうんだよ。
「とりあえず、全ては梨元宮に、高村愛の記憶を甦らせてもらってからだな。それで、全ての話がつながるだろう」
「父様、高村愛のことなんですが、牧田と美也子が稲荷屋さんから、気になることを聞いたようですので、今、内容を確認しませんか。場合によっては、不比人から喜代水へ要請をしてもらった方がいいかもしれません」
お父さまが、珍しく固い表情でお祖父さまに訴えた。お父さまが私を、いつものふーちゃんではなく不比人と呼ぶ時は、ちょっと深刻な話だ。喜代水を呼ぶって、何か穏やかじゃないというか、私が苦手な「そっち系」な気がする。すぐに牧田が呼ばれて、美也子さんと稲荷屋のことを報告するようにと指示された。
「牧田、美也子さん、今日、稲荷屋さんがお菓子を届けに来たときの話を、皆にも報告してくれるかな。ちょっと気になることがあってね」
牧田は平常運転だが、美也子さんは、十三人が一斉に自分に注目するので居心地が悪そうだ。
「はい、旦那様。本日は、若様のお菓子の意匠の件で商売の話がしたいということで、三津男が挨拶代わりにお菓子を届けに来ました。その時に、旦那様からご指示を頂いていた通りに、高村愛の様子をそれとなく訊いてみましたら、三津男の方でも、若様にお菓子の件以外で、ぜひともご相談したいことがあるようでして、渡りに船と、色々と話してくれました」
「みつお?」
父様が私を見るので「末っ子こんちゃんだよ」と教えると「ああ、サブオか」と納得したようだ。父様は、三番目の子供は、何が何でもサブにしたいようだ。真護みたいに兄弟がいるのは羨ましいけど、弟妹がいなくてよかったよ。妹だったら、生まれる前からサブ美で決定だ。かわいそう過ぎる。
「三津男が言いますに、高村愛が来てから、どうも稲荷屋の人間関係がぎくしゃくしているようです。ここ数日、女将と次男の
牧田のいつもの冷静な声で淡々と稲荷屋で起こっていることの報告が始まった。
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ちょっと短いですが、時間軸が変わるので、78話はここまでになります。次話を同時に投稿していますので、引き続きよろしくお願い致します。
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