ご褒美のキス

スマホでSNS『ツブヤイター』をチェックすると……そこには先輩の写真が投稿されていた。


あの三人組が先輩の写真を無断投稿していたのか。それで冒険者ギルドが話題になったようだな。


宣伝してくれるのはありがたいが、なんだか複雑な気持ちだ。



「先輩大変です」

「どうしたの、愁くん」

「ツブヤイターに先輩の写真があったんですよ。午前中からいる三人組の仕業でした」

「そ、そうだったの!?」

「なんと“いいね”が1200件。更に“リツイート”が300件もありますよ!」


「そんなに!?」


先輩は驚いていた。俺も驚いた。あの三人組の影響力高いな。フォロワー数も多いし、どうやら、ちょっとした有名人らしい。


「これは立派な盗撮です。訴えてやりましょう」

「う~ん、それがね。さっき九十九さんに聞いたんだけど、この冒険者ギルドって撮影自由なんだって」


「え! そうなんです?」

「ほら、そういうコスプレのお店だから」


言われてみればコスプレしないと入店できないないのだった。異世界がコンセプトだしな。


「でもネットにアップするのはダメでしょう。俺が注意してきます!」


腕をまくって突撃しようとするが……先輩が止めてきた。


「いいの、いいの」

「でも……」

「わたし、いつかコスプレイヤーになろうかなって思っているし、有名になれるならいいかなって」

「それマジっすか!」

「うん、マジ。水泳やってるのも体型維持のつもりでね」


そういうことだったのか。

そう言われると水泳ってトップクラスの有酸素運動でカロリーの消費も激しいし、ダイエットにもいいと聞く。


なるほど、先輩の美貌の秘密は水泳だったか。


それにしても……コスプレイヤーを目指していたのか。なら、先輩の夢を俺が潰すわけにはいかない。


ここは寛大な心であの三人組を許すしかなさそうだな。



* * *



店に行列が出来たのは初めてらしい。

先輩目当ての客が増殖し、大変なことになった。

わざわざ他県から来た客もいたほどだ。


おかげで店の売り上げは過去最高になりそうだ。


けれど、そろそろ時間だ。


十七時にてバイト終了。



俺と先輩の仕事は終わった。

あとは親父や九十九さんに任せることにした。



先輩はすっかり乾いた制服に着替え、俺の部屋にて帰る準備を済ませていた。



「お疲れ様です、先輩」

「愁くんもお疲れ様」


「先輩のおかげで大盛況でしたよ」

「老若男女問わず声掛けられたし、写真もいっぱい撮っちゃった」


「俺としては、ちょっと複雑ですけどね」

「そんなねないで。ほら、愁くんだって今日頑張ったでしょ。そうだ、頑張った人にはご褒美をあげないとね」


「ご、ご褒美ですか!?」


「うん。好きなのを選んでいいよ。①キス ②ハグ ③膝枕」



な、なんと選択式だと!

これはどう考えても①のキスなのだが……。正直、ハグや膝枕も捨てがたい。


先輩と抱き合えるとか夢のようだ。

膝枕なんかも最高だ。絶対に天国を感じられるよな。


だが、やっぱりここはキスしかない。

先輩とは一度だけ『契約』の時にキスしている。あとは頬があったけど――それっきりだ。



「では、キスで」

「分かった。じゃあ、愁くんからして」



先輩はまぶたを閉じ、俺のキスを待った。……いかん、まさかの瞬間を迎えて俺は頭が真っ白になってしまった。

自分でこの選択をしておいて先輩にキスする度胸がなかった。

けど、これを逃したら先輩が遠くへ行ってしまうような気がして――謎の焦燥感に襲われた。


なら、いっそ……。



「先輩、本当にいいんですね」

「いいよ、恋人だもん」


「……っ」


それが決定打となった。

そうだ、俺と先輩は恋人なんだ。ふり・・だけど恋人なのだ。少しでも恋人らしく振舞うためにも練習は必要だよな。うん。


そう、これは練習だ。

そう思えば気が楽になった。


俺はゆっくりと先輩の顔に、桃色の唇に接近していく。


先輩は耳まで真っ赤にして少し震えていた。


俺は初めて自分から女の子に――先輩にキスをした。



「……」



甘い時間が流れていく。

今日、学校サボって良かった……。

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