抱き合ったり恋人繋ぎしたり...

先輩はガチガチに震える手で俺にカレーを食べさせてくれた。なんとか口へ運んでもらい、ゆっくりと味わって幸せを噛みしめる。……うめぇ。


「食べさせてもらうとこんなに味が変わるんですね。美味しいですよ、先輩」

「よ、良かった……えへへ」


周囲から注目されまくりで、俺はさっきまで心臓バクバクで死にそうだった。でも、先輩から食べさせてもらってから、かなり冷静でいられた。


視界に先輩の優しい顔しか見えていないからだ。そうだ、先輩だけを見つめ続ければいい。



――そうして、完全な恋人を演じながら食事を終えた。



食堂を出てもなお、注目が続く。

どんだけ関心あるんだか。



「幸せをありがとうございました」

「こちらこそ愁くんを幸せに出来て良かった」


太陽のようなまぶしい笑顔を向けられ、俺は先輩に対する“好き”という気持ちが一気に膨れ上がった。……どうせなら本当に恋人になれれば――。


そう感じていると、正面から男子生徒が現れた。……誰だ?



「和泉先輩、これはどういうことっすか!」

「……」



先輩は明らかに引いていた。

……そういうことか。


恋人のふりをして欲しいという理由のひとつだろうな。


納得していると男子生徒は更に先輩に詰め寄った。


「どうして、そんな得体のしれない男と付き合っているんです!」

「いきなり失礼ね、牧田まきたくん。愁くんをそんな風に言わないで」


男の名は『牧田』というらしい。

そういえば、隣のクラスにそんなヤツがいたような気がする。資産家の息子だとかで、ちょっと噂になっていた。

というか、かばってくれる先輩に感謝しかないっ。


「先輩ほど可愛くて美人……勉強もできて頭脳明晰、成績優秀な人はそうはいません。なのにこんな男と釣り合わないですよ」


「話はそれだけ? もういい、愁くん行きましょ」


手を繋いで引っ張ってくれる先輩。

いやそれどころか俺の腕にくっついてきた。……む、胸が当たってる。


さすがの牧田もこの状況に愕然がくぜんとなっていた。……ですよね。俺が逆の立場なら、絶望しかない。


ここまで見せつけたんだ、諦めてくれるといいけど。



* * *



お昼が終わる。

階段で別れる寸前、先輩の方から抱きついてきた。


「……! せ、せんぱいっ!?」

「愁くん、さっきはありがとね」

「いえ、俺はなにもできなかったですし……」

「そんなことはない。隣にいてくれたから勇気が出たし、助かった」


「他にもああいう輩はいるんですか?」


「うん、まだいっぱいいる。だから、ずっと恋人のふりをしてね」

「分かりました。先輩をお守り致しましょう」


「愁くんのそういうところが好き。じゃあ、またね」


先輩は俺から離れて上の階へ。

俺も教室へ戻ろう。



――授業をサボってばかりもいられない。



先輩との出会いが俺のやる気を上げさせた。もし先輩という存在がなかったら、俺は今頃腐ったままだったろうな。


午後の授業をそれなりに真面目に受け――放課後。


帰り支度を済ませ、教室を出ようとすると教室内がざわついていた。



「廊下に和泉先輩がいるぞー?」「誰か待ってるのか」「え、誰って誰?」「そういえば、誰かと付き合ってるって聞いたぞ」「もしかして、この教室に相手が?」「うそー! 後輩と付き合っているってことー!?」



それ、俺です――なんて手を挙げて公然と言えないけど、どのみちバレることだ。



カバンを持ち、俺は廊下へ。

先輩が手振ってトコトコと駆け寄ってきた。……小さくて可愛い。



「愁くん、一緒に帰ろっか」

「先輩、俺の教室知っていたんですね」

「聞いて回ったから」

「そういうことでしたか」



……さて、教室の方は。


うわ、めっちゃ見られてる!


もう気にしても仕方ないな。……まあいいか、俺と先輩が付き合っていると知れ渡れば、邪魔者も減るだろうし。


歩き始めると、先輩は“恋人繋ぎ”をしてきた。

こ、これは……指と指を大胆に絡めて手を繋ぐアレじゃないか――! こんな場所でしてくるとか、先輩ってば何を考えて……。


「…………ッッ」


先輩、顔真っ赤!

口元も震えまくりだし、無茶しすぎー!!


俺も死にそうなほど動悸が乱れている。呼吸が不規則に荒いし、異常なほど興奮状態だ。……恋人繋ぎなんて人生で初めてだからだ。


恥ずかしすぎて逃げ出したい。


けど、これを振り解いたら先輩との関係が終わってしまう。それは嫌だ。


耐えろ、俺。

耐え凌げ、俺よ。


恋人のふりをするんだ……全力で!



***おねがい***

 続きが読みたいと思ったらでいいので『★×3』をしていただけると非常に助かります。

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