第69輝 放課

「ふぅ……」


 1日限定のクラスメイトに朝囲まれてから、数学の担当の先生による救出を受け、無事? 1限の授業を終えた。

 中学1年生の内容ということもあって、授業は簡単だった。それもそうか、中身は既に高等教育を終えて専門学校に通っている身だ。多少忘れているところもあったが、一度説明を聞けば思い出したかのように解けた。

 これぐらいならこの後の教科も問題ないだろう。俺は軽く伸びをして、教科書を見せてくれた、隣の席のリーテ───あらため、刄田はたに感謝を告げる。


「教科書見せてくれてありがとう、刄田さん」

「ん」


 無愛想に短く返された返事に「ははは」と苦笑を返し、近づけていた席を戻す。───正直、授業中、刄田からの圧が凄過ぎて気が気じゃなかった。授業内容に集中するように気を紛らわせれば何とか気にしないようにはできたが、お陰で専門学校のそれよりも綺麗に纏められたノートができてしまった。


「数学どうだったー?」

「それなりかなぁ。大丈夫だと思う」


 授業が終わって即行で俺の席までやってきた明日葉にそう返し、ガサゴソとカバンを漁り出したクラスメイトと手提げを持っている明日葉と怜奈、なな───眼鏡をかけた委員長みたいな少女の名前だ。1限が始まる寸前に教えてもらった───を見る。どうやら次は移動教室らしい。


「次は移動?」

「体育館で魔法実践の授業」

「次とその次の授業もですね」

「2時間連続か……」


 怜奈と虹に言われてもう一度周りを見れば、制服を脱ぎ、魔法実習用と思われるジャージに着替え始めたクラスメイトの姿が───

 ───ん? 着替え? 女子J中学生Cが?

 まっずい……! まだ普通にクラスメイトとして話す程度なら許される気がするが、さすがに着替えを見るのは犯罪だ……!

 俺の背を冷や汗が流れていくのが分かる。どうするべきか頭の中でグルグル考えるが上手い回避方法が思いつかない。


「桜木さん? どうしたの? 着替え忘れた?」

「あ、あぁ! そうみたい! 安宿部先生にどうすればいいか聞いてから行くから先に着替えてて!」

「えー?! 1人で大丈夫?! 迷わない?」

「うん、ほら、この学校案内板多いし。多分大丈夫? かな?」


 謎に疑問形で答えた俺に、明日葉達はどこか納得のいかないような顔をしながら自分の席に戻って行った。

 あっぶねぇ……危うく本当に犯罪者になるところだった───いや、ほとんどアウトに近いけど不可抗力だ、許して欲しい。ホント、許して。

 九死に一生を得たとばかりに明日葉の気遣いを裏手に取り、荷物を纏めて教室を出る。この際、周りは一切見ないものとする。

 適当にトイレとかで着替えよう。ってか多分そこぐらいしか着替えれるような所が思いつかない。

 廊下に出てすぐにあった校内の地図が表示されている端末を見て、トイレの場所を確認する。───ちなみに近くに男子トイレは無かった。

 大変不本意だが、俺は近くにあった女子トイレに駆け込んだ。着替えのためにちょっと使わせてもらうだけ。うん。問題ない。


「───はぁ」


 ため息をついていても仕方ないな。取り敢えず着替えよう。幸い、着替えに使える程度はトイレの個室は広いし、他の部屋に誰もいないことは入った時に分かっている。特におくすることも無く俺は制服を脱いでいく───ジャージで、かぁ……本当にこの服で魔法実技受けるのか? 安全性的に大丈夫なんだろうな?

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