第62輝 面談

「ここが鴟尾女学園か……」


 俺が決闘を受けるとあって少々興奮気味だったリリーと、いつの間にか放課後に決闘する場所の確保を済ませてしまっていた芽衣さんと共に車に揺られること数分。俺達の車は市街地から少し離れたところにある、鴟尾女学園の正門前に到着していた。

 旧校舎もデカかったが、それに負けず劣らず……いや、こっちの方がデカいか。

 校舎に付けられた時計を見れば、まだ登校するには早い時間なことが分かる。校門にもまだ生徒たちの姿は見えない。


「まずは学園長室よ。付いて来て」


 そう言ってとっとと車から降りて正門の方へ歩いて行ってしまう芽衣さんの後を追って、俺とリリーも学園の中に入る。

 学園は、昔ながらの由緒正しきというよりはどこかファンタジー感漂う、デザインだけ懐古趣味な洋館風の造りになっている。旧校舎は近未来的な設備が多かったが、こちらはどちらかというと『物語の中の魔法学校』らしい建築に見える。───俺はこっちのほうが好きだな。

 建物の中も当然、西洋の館風の内装になっていて、一瞬タイムスリップしたのではないかと思わせるほどだ。まぁ、清掃用のドローンのせいで台無しなんだけどさ。

 周りを見回しながら校内を進んでいくと、隣を歩くリリーがそれとなく説明してくる。


「あれは校内に設置してある目安箱。生徒会に何か要望がある生徒に意見などを投書してもらってるわ。学食のメニューなども募集してるのよ」

「あれは学校案内用の端末ね。この学校って広いから、迷っちゃう子も多いのよね」

「あれは自販機。全生徒に渡されてるスマートフォンやウェアラブル端末から決済できるわ」


 と、こんな具合に。その説明を聞きながら俺は、「へー」とか「なるほど」とか返事しながら目に入った設備について質問していく。

 やはり国の貴重な人材である魔法少女の育成機関なだけあって、設備には資金を惜しんでいないようだ。───ここに入るか悩んでいる子や親御さんへの広告も兼ねているのだろうが。

 一般的に魔法少女の育成校に入った子は、その8割が魔法少女関連の職に就く。魔法省に務めたり、魔法を使った医療分野に進んだり、基本魔法が使える人材は引く手数多あまただ。魔法少女になって戦場に立つ子は限られた才能を持つ子だけだが、なれなくても就職先に困ることは無い。

 けど、魔法を少しでも使少女の一般の就職先への内定率は1割を下回る。普通の学校に通っていれば、いくらか誤魔化しが効くが、この学校に来てしまうと自ら「魔法が使えます」と言っているようなものだ。履歴書にこの学校の名前が載ったら最後、もう普通の企業に就職は叶わないと言っても差し支えないだろう。

 それでも魔法省は、才能のある人材を逃したくない。それが故のこの見た目にそぐわぬハイテク技術の詰まった学園なのだろう。見た目がファンタジーっぽい如何にもな魔法学園であるのも、恐らく少女ウケを狙ったものなんだろうな。

 

「ここよ」


 そうやって暫くリリーの説明を受けながら歩いていると、芽衣さんに少し大きめな観音開きの扉が出迎える部屋の前で止められた。───この先に学園長がいるのか……少し緊張するな。


「桜木 芽衣です。体験入学生を連れてきました」


 4回のノックと共に芽衣さんがそう言うと、中から「入りなさい」と短く重い女性の声が聞こえてくる。


「失礼します」


 まぁ一応体験入学生だし、リリーに続いて入室の挨拶をする。

 学園長室の中は、彼女の趣味なのか色々な種類の花が飾られていて、ちょうど朝の日差しがそれらを美しく照らしている。

 そんな部屋の中、デスクに座っている学園長は、できるキャリアウーマンと言った出で立ちで、学園長という肩書きを持つにしてはいささか若く見える。


「貴女が話題の野良の魔法少女ね? 私はこの学園で学園長を任されている、柴田 ひかるよ。よろしく、クレイアンブロイドさん」

「───よろしくお願いします」


 話題とはなんだ話題とは。一体どんな話題になってるんだ。

 思わず聞いてしまいそうになったが、正直ここで話を伸ばしてもいいことは無いと頭を軽く下げる程度に留める。───とっととこの部屋から退散したいからな……偉い人との会話は疲れるし。

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