第63輝 擦違

「早速本題だけど、貴女には中等部1年Aクラスで体験入学生として1日生活してもらう。その際何かあれば担任の先生や室長に聞きなさい。放課後のリリーアメシストとの模擬戦の件は了解しているわ。好きにやりなさい」

「……ありがとうございます」


 もう知られてるのかよ。多分芽衣さんからなんだろうけど……こういうことの仕事根回しは早いんだよな、芽衣さんって。


「それと、貴女がこれから行くクラスには、面識があるリーテタンザナイト───本名、刄田 加蓮がいるわ。何かあれば、こちらも頼るように」

「───了解しました」


 リーテと同じクラスなのか……嫌な予感しかしない。

 昨日まで───主に俺が魔法省を一方的に悪く行った件など───で、彼女の中の俺の評価は恐らく最低に近い。好感度はマイナス値だ。

 っていうか、リーテの本名、普通に教えられちゃったけどいいのか? 魔法少女の本名って機密事項じゃねぇの?


「私から伝えることはこれくらいね……何か質問はある?」

「いえ、特に」


 と言ってから気がついた。この体験入学が終わったら俺の身柄はどうなるんだ? そのまま拘束? それともここで飼い慣らされる? もしどちらかなら本格的に今日中に逃げる手筈を整えなければならない。


「すみません、やっぱり1つだけ。私の身柄はこの後どうなりますか? ほら、一応指名手配犯だったわけでしょ? 今日の体験入学の後、どうなっちゃうのかなーって」

「ん?」

「指名手配犯?」

「えっ?」


 芽衣さんの短い疑問と共に、隣にいる紫の魔法少女が頓狂とんきょうな声を上げる。

 え? なに? 何を当たり前のことを聞いてる的なそれ?


「はぁ……星。貴女は指名手配なんてされてないわ」

「え?!」

 

 芽衣さんのため息と共にもたらされた衝撃の真実に、俺は無意識に声をあげてしまう。


「いやでも、レイドジェードとかが『身柄を拘束する』的なことを言ってた気がするんですけど……」

「あぁ、それは私が貴女のカウンセリングをするためにあの子たちに協力を要請したのよ。ただ、貴女を連れてきて欲しいと言っただけで、指名手配していたわけではないわ」

「え、じゃあ、昨日のデストピアみたいな部屋は? 拘置所とかじゃなく?」

「貴女を泊まらせてあげれるような部屋が用意できなかったのよ、あそこしか」


 どうやら俺が指名手配犯されていたっていうのは、俺の早とちりだったみたいだ……

 え、じゃあなんのために逃げたんだよ……バルクを人質にしたりエトセトラした意味───

 いや、ほら、男バレしてモルモットコースを避けるためだから。うん。そうだった。あぶね、罪悪感に苛まれて危うく変身して逃げるところだった。───変身できるか分かんないけど。変身に使うT字のアレも無いし。


「だから、この体験入学が終わったら普通の生活に戻っていいわ。もしここでの生活が気に入ったら、そのまま編入することも可能だけど」


 そんな事を言う芽衣さんを前に、俺はどうも肩透かしを食らったようで、ガックリと項垂れるしかない。


「奇妙なアンジャッシュ状態は解消されたようね?」


 俺の横でリリーがやれやれと言った雰囲気で呟いた瞬間、校内にチャイムが鳴り響く。

 学園長室の壁に掛けられた時計を見れば、時間は8時15分。普通の学校なら始業前の、遅刻確定まで残り5分のタイムリミットを知らせる予鈴ってところか。


「そろそろ今日1日貴女の担任になる先生がここに迎えに来るわ。───来たらそのままクラスに行ってもらうけど、自己紹介は考えたかしら?」

「あっ、どうしよ」


 しまった、何も考えてないわ……何話そ……

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