第54輝 愕然

「ごめんなさいね。最初に伝えるべきことを忘れてしまっていたものだから」


 そう言ってウィンクしながら少し舌を出した芽衣さんは、表情を戻してから続けて次の質問を投げ掛けてくる。


「それじゃあ次の質問だけど───貴女の、願いについて」

「ッ」


 その言葉に、俺は思わず息を詰まらせる。

 願い。恐らく何を願って魔法少女になったのかということだろう。

 前にバルクに「なぜそんなに強いのか」と問われて復讐だと答えた事があった。恐らくそのことについて聞くつもりなのだろう。

 ───そんな俺の予想は、完答には程遠く。


「貴女の願いは復讐だとバルクから聞いているわ。そういう子はうちにもいるから理解はしてあげられるつもり。でも───」


 視界の端でリーテが反応したように見えた。が、俺は何故彼女が反応したのか考える暇もなく、続く芽衣さんの言葉に動揺を誘われることとなった。


「でももし、本当にそうなら、魔法省への接触を『味方だ』と公言する魔法少女達から逃げてまで避けている理由が分からない」


 一呼吸置いて、俺を見透かすように様子を窺う芽衣さんの圧に、俺は思わず視線を外す。

 確かに、ではなく、俺のが『SOに対する復讐』なら、男だとばれないように多少工夫してでも魔法省に所属したかもしれない。───だけど、俺の願いはそれだけじゃない。簡単に命を捨てる魔法少女も、彼女たちをこき使う魔法省も、彼女たちが戦う原因のSOも消すことが俺の本当の願い。


「復讐───SOの殲滅を望むなら、魔法省に所属するべきではないかしら? それを拒む理由も、聞かせて頂きたいわね」

「それは……」


 だが、そんなことを馬鹿正直に語れるわけもないし、男だということもバレるわけにはいかない以上、結局俺は魔法少女や魔法省とは極力接触しない方がいいのだ。

 俺的にも魔法省に所属してスクワッドを組まされるより、俺一人で戦って魔法省の魔法少女の仕事が減るならそれの方がいいし。


「───魔法省は信用できないから。それだけですよ」

「何だってッ!?」

「落ち着きなさいリーテ。───それはなぜ?」


 結局俺は、噓と真実を混ぜて話すことにした。───某司令も『時折事実を混ぜること』が上手い嘘の付き方だと言っていたしな。

 実際、魔法省が信用できないと思っていることは噓じゃない。ただ、それ以外にも理由があるだけで。


「魔法少女達に指示を出すだけ出して、踏ん反り返っているような組織のどこに信用できる要素があるというんですか? ───私には、到底信用はできませんね。そんな組織の下で命を懸けるなんてまっぴら御免ですね」

「言わせておけば───!」

「リーテタンザナイトッ!」


 いつもの芽衣さんからは考えられない覇気で放たれた言葉に、俺まで震えてしまう。

 ───ってか、リーテの魔法省への忠誠心はなんだ? 何をそこまで擁護しようとさせるんだ?


「抑えなさい。クレイアンブロイドが言っていることも理解できるわ。確かに、傍から見たら踏ん反り返っているだけのように見えるだろうし、ここだけの話、上層部はそう考える人も多いから」


 「でもね」と芽衣さんはリーテに向けていた視線をこちらに戻し続けてくる。


「そんな人だけではないことも理解してほしいわね」

「それはそうかもしれませんけど……」

「近く上のお掃除も始まるし───百聞は一見に如かずかしら」


 ───何か閃いたような仕草をした芽衣さんに、嫌な予感を感じまくっている俺は、この場から早急に逃げたい衝動に駆られるが、後ろのリーテが許してくれないだろう。


「体験入学、しましょっか」

「───はい?!」


 予想以上の無理難題に、俺はここから逃げることも忘れて愕然としてしまうのだった

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