第53輝 質問

「妖精、という言葉に聞き覚えはあるかしら?」


 そんな芽衣さんの発言に、俺の思考は一瞬フリーズした。


「妖……精?」

「ええ、妖精。精霊ではないわ。聞き覚えは?」


 これはどっちだ?

 良く考えれば、あのイルカのSOとの会話で妖精について話している。っていうことは聞かれていてもおかしくはないのだが、同時にリリーにはが近くにいると説明していたはずだ。

 ……分からない。だけど、ここで知っていると答えるのはまずい気がする。


「なんのことか……精霊なら知っていますけど……」

「そう。───まぁいいわ。じゃあ他にも軽く質問していくわね。この質問で貴女の扱いが変わったりはしないから、気軽に答えてもらっていいわよ」

「は、はぁ……」


 気軽にって……何聞かれるか分かんねぇ……

 芽衣さんの尋問とか正直受けたくなかった。この人は魔法少女のカウンセリングもやっているのだ。───というか、本業はそちらだったはずだ。

 心理学に詳しい芽衣さんが尋問なんて、下手なことを答えたら俺が───鎧塚 聖がクレイアンブロイドだとバレかねない。

 参ったなぁ……降参ボタンとかないかな? 「降参しますっ! すんませんした!」とか喋るヤツ。


「じゃあ2つ目ね。貴女が武器に使っているあの宝石について知っていることはある?」

「魔晶石でしょう? 魔法少女の心にして変身に必要な媒体」


 これは常識レベルだ。───本当に気負わなくていいのか?


「───3つ目の質問よ」


 芽衣さんは少し驚いたような表情をした後、続けて2つ目の質問をし始めた。後ろにいるリーテも凄い顔してるな……

 確かに壊れたらほぼ死ぬような心をそのまま武器にしてるんだから、正気じゃないと思うのは普通か。だがまぁ、割れる気配もないし、斬れ味もいいからこれを武器として使わない選択肢はないんだけど。───熊のSOにも、エンチャントすれば対抗できたしな。


「いつ魔法少女の力を発現させたの?」

「───私が初めてレイドジェードとリリーアメシストに会う直前。蟹型のSOに襲われた時に」


 「報告通りね」と、いつの間にか取り出していたノートにメモしていく芽衣さんを眺めながら、リンがどこに行ったのか、そっと視線を動かす。

 ───いた。換気扇のようなものに張り付いている。


「じゃあ次の質問に移るわ」


 メモが終わった芽衣さんの方に視線を戻し、次の質問に備える。

 あと何個答えればいいんだ……? 早く解放して欲しいんだが。

 そういえばこの部屋は窓らしい窓がない。時計もないから、外の正確な時間が分からない。

 ───聞いてみるか。


「その前にこちらから1つ質問させてもらってもいいですか?」

「えぇ、構わないわよ。何かしら」

「今何日の何時ですか?」

「───今は貴女が熊のSOと戦ってから夜が明けてすぐの昼間ね」


 ということは、もう今日は日曜日か。明日は普通に専門学校に行かなきゃいけない。この前みたいに休講なんてこともないから、帰るなら今日中だな。

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