第26話 追う

「SOが現れた付近で魔法少女によると思われる魔法発動の兆候が!」

「なんですって?」


 待機室に突然入ってきた魔法省の職員の人が、扉を開いたまま芽衣さんに向かって叫んだ。

 すぐに芽衣さんはリリー先輩から離れて、職員さんの方へ駆け寄っていく。

 魔法省のみんなはまだ待機中……ってことは野良の魔法少女が戦い始めたってこと?


「クレイアンブロイド……」

「え?」

「十中八九彼女でしょうね」


 レイド先輩の呟きに、芽衣さんから離れてこっちに来たリリー先輩が答えた。


「先輩、そのクレイ……さんって昨日の?」

「クレイアンブロイドね。そう、その子だよ」


 やっぱり……!

 じゃあ、今行けばクレイアンブロイドさん……長いからやっぱりクレイさんでいいや! クレイさんと会えるってことだよね?!

 作戦通りなら私も作戦に参加できる。どんな人なんだろう。遠くからでもいいから、見てみたい。───魔法少女になったばかりで、3等級程度の実力らしい、彼女を。


「───全員注目!」


 いつの間にか戻ってきていた芽衣さんが、待機室のホワイトボードの前に立っていた。

 魔法少女のみんなの視線が芽衣さんの方へ集まったのを確認してから、作戦の説明が始まる。


「現在、野良の魔法少女クレイアンブロイドがSOと交戦中。偵察用ドローンを向かわせて様子を探らせているわ。状況が掴め次第、バルク、リーテ、レイドの3名は作戦区域に突入。クレイアンブロイドと協力しながらSOを討伐して頂戴。リリーはこの場で待機。他の4名は何かあった時に備えておいて。魔人の姿が確認されたらすぐ出てもらうわ。それまではリリーと同じく待機」

「───ま、待ってください!」


 珍しく声を荒らげ立ち上がったリリー先輩に、みんなの視線が吸い寄せられる。


「なに? リリーアメシスト」

「クレイアンブロイドと即興のスクワッドを組むということですか? 芽衣さん」

「そういうことになるわね」

「反対です! 彼女は魔法少女とはいえ野良で、成り立てですよ!? 訓練もまともに受けたことのない魔法少女とスクワッドだなんて皆が───」

「落ち着けリリー」


 ヒートアップしてきたリリー先輩を、半ば強引に抱きしめるようにしてレイド先輩が止める。

 リリー先輩の言いたいことは分かる。私も、正直まだあったことの無い魔法少女と連携を取れっていうのは不安だ。

 ───なんで芽衣さんはそんな作戦を?

 もう一度芽衣さんの方へ目線を向けると、少し悲しそうな顔してる……?


「レイド、貴女にはクレイアンブロイドが、私たちが来たから後は任せろと言って、任せるような子に見えた?」

「───いいえ。少し話しただけなので確かなことは言えませんが……そんな人には見えませんでした」

「ふふ、やっぱり……」


 顔だけ芽衣さんの方へ向け答えたレイド先輩に、なぜか笑ってる芽衣さんはやっぱりどこか悲しそうで、まるで誰かのことを思い出してるみたい。


「光系統の子はね、真っ直ぐすぎるのよ、クレイアンブロイドも多分そう。そういう子は止まらないのよ。もの───」

「芽衣さん?」


 落ち着きを取り戻したリリー先輩も、困惑しながら芽衣さんの方を見てる。───レイド先輩に抱きしめられたままだけど……


「だから、協力する。1人で危険な道を進まれるより、協力して進んだ方が幾分か安全でしょ?」


 ね? と締めた芽衣さんがなんでこの作戦を立てたかも分かった。

 魔法少女に沢山接してきた芽衣さんだから分かる、光系統の魔法少女の性格。それを計算した上での作戦なんだ、これは。

 真っ直ぐ、ただひたすらに1人で進んで行ってしまう……クレイさん。

 追いかける人が増えちゃったな……

 とにかく、この作戦中ぐらいは付いて行かないと。誰も1人にはさせたくないから。

 リリー先輩もさっきの説明で納得したのか、レイド先輩を引き剥がして席に戻っていた。


「クレイアンブロイドは治癒魔法を使うサポーターだと思われるわ。レイドジェードのスクワッドならアタッカーが2人だし、即席とはいえ、いいスクワッドになると思うわよ」


 ドローンの映像が届くまでには出撃の用意を済ませておいてちょうだいと残して、芽衣さん待機室を後にしていった。


「ついてこいと言わんばかりに先に進むんだから……琥珀アンバー


 廊下で密かに呟かれたその言葉に反応したものは、当然居ない。

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