第27輝 名付

「これならやれるッ!」


 トカゲみたいなSOの前足での斬撃を長剣でいなし、反動を利用して体を回転させながら斬りつける。

 さっきより格段にヤツの動きが見やすくなったし、ついていける。これなら殺せそうだ。

 俺に斬られた腹を庇うようにしながら俺の間合いから引いたSOに、魔力をまとった足で一気に近付く。

 ───この低燃費仕様で発動させた"願いの魔法"、これだけ使ってもまだ走れそうだ。昨日使った時は一気に魔力が持っていかれたが、あれはってことだろう。今発動している願いの魔法は、じわじわ少しずつ魔力を消費している感じ。これなら体感3時間は発動し続けられそうだ。


「おらァ!」


 少し願いを強めて速度を上げ、一気にトカゲの首を刈り取りにかかる。

 ───これなら避けられまい!

 一気に宝石の刃が首に近づきつつある中、SOは何を思ったのか頬をふくらませ始めた───?!


「まずっ……!?」

「セイ! 避けてください!」


 俺の剣がSOの首に触れるかというところまで迫った瞬間、トカゲが口から液体を吐き出してきやがったッ!


「言われるまでもッ───!」


 咄嗟に剣をトカゲの首横の地面に突き立て、そこを支点にして体を持ち上げる。さながら棒高跳びの選手のような体勢だ。

 そのまま吐き出した液体ごとSOを飛び越える。少し液体が掛かったか、腰のマントが少し融けて虫食いみたいに穴が空いてしまっているが、それ以外に被害はなさそうだ……避けれて良かった!


「ふッ!」


 俺側のダメージ確認もそこそこに、地面から引き抜いた剣でそのままSOの首を刈り取る。

 やったかフラグなんて言う建てる間もなく絶命したSOは、その性質に従って粒子になって消え始めた。


「呆気なかったな」


 思わず、そんな感想が口から漏れ出す。いや、苦戦したにはしたんだ、確かに。最後のSOが口から吐き出した粘液なんかは実際に危機を感じたし。

 それでも、一瞬で終わってしまったように感じる。決して弱かった訳ではないはずなのに、何故か呆気ないと漏らしてしまう程度には。

 程なくして、SOの形が完全に消え、緑と紫色の魔石が地面に落ちる。

 SOは殺しても死体が残らない。残るものは核となる魔石が1つのみ。未だ解明されてないSOの謎の1つだ。───強力な魔法少女も死ぬ時に淡い魔力の粒子となって、魔晶石だけを残して消えてしまうらしいが……そんなことにはな。


「2色……なぁ白猫、魔石は1色のはずだよな?」

「えぇ、そのはずですが……」


 やっぱり普通じゃないな……

 こんな普通じゃないSOの魔石を見て思い出すのは昨日の魔人と蟹のSO。あの蟹と同じく、トカゲ擬きも2つ目の属性を持っていたしな……爪での斬撃を強化する魔法だと思っていたが、最期に毒を出してきたからな。恐らくトカゲのSOも2属性持ちだったんだろう。だから魔石の色も2色ってことか?

 ───まさか、いたのか? あの魔人が今回も近くに。

 戦闘前も今も、それらしい気配は周りにはない。だが、ヤツの性格的に自分が手塩をかけて作った"研究成果"は自分の目で見ようとするはずだ。

 しかし、ヤツが関与しているSOにしては弱かった。

 ───考えても仕方ないか。とりあえず、SOは殺せた。知らなかったことも知れたし、訓練としては上出来だろう。


「帰るか」

「そうですね───あ」

「あ?」


 何か重要そうなことを思い出したみたいな顔でこちらを見てくる白猫。なんだよ、なに? え? 重要なこと?


「私の名前。白猫では呼びずらいのでしょう?」

「あぁ! 忘れてた」


 戦いに夢中ですっかり忘れていた。いや仕方ないだろ?! やめて、だからそんな目で見ないで!

 じとりとした目を向ける白猫に体ごと向き直り、軽く咳払いをしてから与える名前を告げる。

 ───そういえば名付けって魔法的に結構重要な儀式じゃなかったっけ。


「リン。お前はリンだ。これからもよろしく頼むよ───相棒」

「リン……リンですか、いいですね。気に入りました」


 過去精霊に名前を付けたことによって、その精霊が上位種に進化した的な記述を魔法省の資料で見た気がする。

 ───が。あくまでそれは精霊の話。こいつは妖精サポートフェアリーであるし、恐らくそういうことはないんだろう。


「これから私のことはリンとお呼びください、セイ」


 猫の姿でウインクしながらカーテシーをとったリンには、先程までとは変わらない人間っぽさがあるままなのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る