第25輝 軽減
「はぁ……」
あれからどれぐらい経ったのか分からないが、白猫曰く「変身が完了してからすぐ」に目が覚めた俺は、白猫に憎悪を向けながらビルの隙間を抜け、SOが現れた方角へ足を進めていた。
変身するのに激痛が襲ってくるなんて聞いてないぞ……世の中の魔法少女は皆毎回こんな苦痛を味わってんのか?
───と、魔法少女たちに対して末恐ろしさを感じたが、白猫に聞くと、どうもこの仕様は俺だけらしい。
……男が魔法少女になる代償だと考えて納得しよう。まぁ、他の魔法少女たちが毎回この痛みを感じていたらきっと、遣る瀬無い気持ちが爆発していただろう。
俺だけでよかった。そう考えていると、そろそろSOが現れた倉庫群が見えてきた。
「───あそこか」
同じ見た目の建物が幾つも並ぶ港の倉庫の中で、1つ───天井に穴が空いている建物を視認する。
「さ、訓練の時間だ」
「───くれぐれも、無茶はしないようにしてくださいね」
「分かってる。俺がやれることを確認するだけだ」
着地地点を空中で調整して、穴が空いた屋根の上に降り立つ。
あれは……なんだ? トカゲ? ヤモリ?
───まぁ、いいや。見た感じは4等級もない感じか。だけど、昨日の例もある。気を引き締めていこう。
あ、そういえば、魔法少女って奴は戦い始める前に宣言というか名乗り的なのをするのが習わしだったっけ。
まぁ一応やっておくかと、少し咳払いをし、背中に背負った琥珀っぽい魔晶石でできた長剣を引き抜きながら名乗る。
「魔法少女クレイアンブロイド。訓練相手になってもらおうか、トカゲ
俺が名乗り終えたのとほぼ同時に、トカゲのようなSOが一気にこっちに距離を詰めてきた。
「なっ、速いッ……!」
SOの実力を見るために魔力で強化していた視界は、何とかその動きを捉えることが出来ていた。
俺と同じ高さまで飛んで来たSOが振り下ろした前足に合わせて長剣を斬り上げる。
魔晶石と爪がぶつかった鋭く耳障りな音の後、SOは直ぐに下に飛び降りていく。
───逃げた? いや違うッ!
「くッ!」
俺の後ろの屋根が砕けたかと思えば、そこから出てきたSOが続け様に斬撃を放ってくる。
結構すばしっこいぞコイツっ!?
まだ昨日の蟹みたいに斬撃を飛ばしてくる訳じゃないからまだいいが、それでもあの速さは苦戦しそうだな……
───こんな命のやり取りを少女にやらせていたんだ。俺たちは。
やっぱり、遣る瀬無い気持ちは収まらない。
「ッ───!」
また下に降りたSOが開けた穴が、最初に覗いていた穴と繋がり屋根が崩れ始める。
さっきまでは俺が高所にいたからまだ対応しきれていたが、同じ高さで戦うってなるとあの速さについていけるか怪しいところだ……
願いの魔法なら追い付くどころか追い抜けるだろうが、あれは魔力の消費が半端ない。極力温存しておきたい。
体を翻して、倉庫の中に降りる。崩れた屋根の瓦礫や舞ったホコリが視界を塞いでいる。───SOは暫くこっちに手を出せないだろう。多分。
「あの速度にある程度ついていけて、なおかつ魔力の消費を最低限に抑えた魔法……ないか」
俺の頭の中に願いの魔法以外思い浮かばなかったって言うことは、あれ以外無いんだろう。
───ある程度今のままアイツの相手をして、タイミングを見計らって願いの魔法を使うか。
「願いの魔法を使えばいいじゃないですか」
「───いや、消費魔力が馬鹿にならないんだが」
さっき頭の中で考えた通り、
例えそれで倒せたとしても、そのあと帰る魔力も必要だ。それに最悪の場合だが、倒せなかった時に負けが確実になってしまう。負けイコール死の戦場で、魔力切れなんてゴメンだ。
「消費魔力を抑えて使えばいいんですよ」
「……は?」
「そもそも魔法少女の全てのことは、魔法少女自身の願いやその強さによって決まります」
魔晶石も、魔法の強さも。そう白猫が続けたことで、俺はやっと理解ができた。
「なるほど、アイツに追いつける程度に願えばそれが叶う。願いの強さに応じて魔力の消費も軽減される……ってことか?」
「はい、そういうことです」
流石セイ、理解が早いですね。なんて言って茶化してくる白猫を無視して願い始める。
「そういえば白猫」
「はい。なんですか?」
「お前、名前は?」
そろそろ白猫なんて呼びずらいのは辞めたい。名前があるならそれで呼んでやろう。
白猫はうーんと少し顔を傾げてから続ける。
「……無いので白猫でいいですよ」
「呼びずらいんだよ……まぁ、いいや、帰ったら考えてやる」
1つ思い浮かんでるしな。それをコイツが気に入るかは知らないが。
───とりあえず、あのトカゲ擬きを殺してからだな。何せ。
「アレに追い付くための速さを───『
瞬間、世界と俺との時間がズレる───
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます