第22話 例え
魔法少女の仲間達が通う学園の一角。
私は、日々のトレーニングのために開放された施設の1つである射撃場で、無心で鉛と火薬を消費し続けていた。
私みたいな銃を使う魔法少女のために作られた施設だからか、こんな朝でもガガガと破壊力のある音が隣でも鳴り響いている。
銃と私の魔法じゃ感覚が全然違うから、果たして訓練になってるのかはあんまり分かんないけど、それでもこうして無心で撃ち続けるのは嫌いじゃない。
「沙紅」
的になっていた紙を見て、いつもより点数が低いなって少し落ち込んでいると、加蓮ちゃんが背中を叩いてきた。
「授業始まってるよ? 先生が怒ってた」
「えぇ?! ホントだっ! やばいやばい!」
時計を見ると時刻は9時50分。とっくに1時間目は終わっており、放課も後5分もない。
思っていたより集中していたみたい。足元に落ちた空薬莢とマガジンが、砂時計みたいに経過した時間を表していた。
私はある程度足元に散らばったそれらをかき集めて回収箱に入れ、走って教室に向かう。
先生には怒られるだろうし、芽衣さんにも怒られるだろうな……はは、
◇
結局担任の先生に怒られて、芽衣さんにも怒られた上に1週間の射撃場への進入禁止を言い渡された私は、死んだようにその後の授業を受け、帰りの道を沈んだ気持ちで歩いていた。
あれからいつもみたいな調子が出ない。
理由は分かってる。昨日私と加蓮ちゃんを逃がすためにあの場に残ったレイド先輩とリリー先輩のこと。
昨日も今日も送ったメッセージには既読すらついていない。
射撃場の件で怒られた後にだけど、他の先輩に聞いた話によると、2人ともまだ病院から帰っておらず、今日の学校にも来ていないという。
詳しい事情が分かったのは学校の授業が終わったあとにあったスクワッドのミーティング。その時に2人のことを芽衣さんから聞いた。
リリー先輩は魔力切れで眠ってるらしい。レイド先輩は、新たに現れた光系統の魔法少女に治癒魔法をかけてもらっていたため、外傷はないが検査のために入院中ということらしい。
───私が、もっと強ければ。
私が、例えば一撃で魔人とSOの両方を倒せたら。そうすれば、先輩たちが無理する必要はなく、みんなで帰ることが出来た。今日も、みんなで学校に来れた。
そもそも、もっと力があれば、魔人たちが現れる前の魔力の渦に巻き込まれることも無く、そうすれば加蓮ちゃんがあそこで無茶をすることもなかった。
例えば───
例えば───
例えば。
私にもっと力があれば。
私にあの2体を簡単にくだせる力があれば。
私に……加蓮ちゃんが使ったみたいな願いの魔法が使えたなら。
願いの魔法なら、みんなを守れた? ……私の願いは、なに?
堤防から見た夕日はまだ、地平線に消えてない。
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