第21輝 若さ

「それで、また芽衣さんに呼ばれてたってわけね。大変だねぇ、優等生様は」

「うるせぇ、思ってもないことを言うな。ってか邪魔だ。机の上に座るなッ!」


 遅れて教室に着き、教科担当の先生に「重役出勤おつかれさん」といじられた1限の後の休み時間。俺はクラスメイトの鵜飼うかい 拓海たくみに絡まれながら今朝貰った資料を読み直していた。いいや、こいつ邪魔者は無視しよう。

 ───やっぱり、あの蟹型は改造されたSOってことか……


「そういえばさ、聖」


 恐らく、蟹型は元々4等級程度のSOだった……それが、何者か───ほぼ確実にイルカの魔人による強化で、あれほどの力を扱えるようになったのだろう。


「おーい、聖ー?」


 となると、今後もヤツのような改造されたSOが出てくる可能性も上がる……魔法省の予報は当てにならないな。あれは改造前の等級で予報を飛ばしてしまうみたいだし……


「おーい、ひーじーりー」


 ───3等級と同等のSOの魔法をぶった斬れた俺も、ある程度はSOと戦わなきゃいけない。魔法省のシステムが当てにならない可能性が高い今、魔法省のシステム外から戦闘に介入できる、"3等級程度の野良"は戦場の切り札ジョーカー足り得るだろう。


「ひーじーりー!」

「んだようるせぇな! 考え事してんだこちとら」


 イルカの魔人も戦闘を見に来るだろうしな……実験結果を観察しに来る感覚で。

 もし本当に戦闘能力がないなら、見に来た時点で暗殺してもいいな。───物騒な考え方だろうか? いや、だが試す価値はある……

 いずれにしろ、今のうちに戦闘経験を積んでおきたい。暫くは野良として、それなりにSOと戦うか───


「お前、若返ったか? 聖」

「───は?」


 突然の思考外からの爆弾投下に、思わず俺は思考を停止してしまった。

 若返った……? 俺が? 何の話だ? いや、何も変わってないと思うが。

 スマホをインカメにして自分の顔を確認するが、昨日の自分と特に変わったところは無い。


「いや、なんか、雰囲気? んー……あ、化粧水変えたとか?」

「生憎、その手の類の物はそもそも使ってない」

「はぁ?! お前、化粧水使ってなくてこの肌かよ!?」

「ってかそういうのって女の物じゃないのか?」

「男専用のやつもあんだよ……皆必死に塗りたくってるぜ? 今はキレイめな男子がモテるからな!」

「そうだったのか……いや、そういうのには疎くてよく知らないんだ」


 特に興味もなかったからな……必要性も感じていなかったし。

 今着てる服だって、友達が選んだものをそのまま着ているだけだし。


「お前、高校生の時とかどうしてたんだよ……」

「高校生の時……? どうだったかな」

「どうだったかな、って、お前モテただろ?」

「いや? 人並みだろ。多分」

「多分ってなんだ! このぉ……ッ!」


 嫉妬の炎を目に宿した拓海が、俺の両頬を人差し指で刺してくる。って痛ぇ、痛ぇって!


「やっぱりなんか弾力が違ぇ……」


 そう言いながら、自分の頬を触って確かめている拓海は、さながら肌を気にする女子のようだった……


「納得いかねぇよ……」


 ───拓海の嫉妬は2限の始まりを告げるチャイムが鳴るまで続き、結局、拓海はそんなことを呟きながら自分の席へと戻って行った。

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