第20輝 呼出

「男である貴方の近くに、私のような存在がいるわけがない。と、それなりに詳しい人間は考えるでしょう?」

「……まぁ、男の近くに精霊がいたって言う情報は今のところないな」


 純粋無垢な男児なら、精霊と会話出来たという例が少なくともあったが、成人近い男性にそのような事例はなかった。


「魔力の塊である精霊や私のような存在は、目の前に"ある"、"見える"という思考によって初めて認識することが出来ます」

「───つまり、男の俺の近くに精霊やらなんやらの不思議生命はいるはずないと思い込んでいるから見えないと、そういうことか」

「はい、そういうことです」

「ふーん……まぁ、いいや───」


 分からないが納得はできた。

 まぁ、こいつが見つからないって言うんならそういうことだろう。見つかった時のことはその時に考えればいいや。

 そんなことより今は───


「───1限の授業はなんだったかな」


 学校の授業に集中することにしよう。





「で、芽衣さん。なんで俺は授業前に呼び出しくらってるんですかね」

「あはは、ごめんなさいねー……」


 教室で1限の授業のことを考えるのも束の間。俺は朝俺の頭を悩ませることになったメールを送ってきた張本人、桜木 芽衣に教務室に呼び出されていた。


「それで? 要件は? 昨日押し付けられた資料に関しては深夜に送り返しましたけど、なんか間違ってましたかね」

「あぁ、そっちは大丈夫よ、助かったわ。今回は今朝送った方」


 ───つまり蟹型と魔人と……もうひとつ。俺についての方か……

 正直、芽衣さんとクレイアンブロイドについて話し合うのは不味い。この人、勘が鋭いんだ。本人は第六感だと言っているが、冗談じゃないレベルだ。

 ここでこの人に正体がバレる訳にはいかない以上、この人の前でクレイアンブロイドの話題を話すのは避けたい。


「───蟹型とイルカの魔人。何か分かったことある?」


 ───そっちか……よかった。

 思わず小さく息を吐いてから答える。


「両方とも情報が少なすぎてなんとも。ただ……どっちも普通じゃないですね」


 少なくとも2つの魔法を操っていた蟹型も、自身を研究職と称し、戦闘に参加しなかったイルカの魔人もどちらも普通じゃない。

 それに、最後に蟹型が放った───融合魔法だったか? あれは少なくとも3等級に匹敵する威力だった。魔法省のSO予報システムでは4等級と出ていたようだが……それも含めて普通ではなかった。


「そう……貴方もそう考えるのね……」


 芽衣さんが思考に耽始めた丁度その時、始業のチャイムが鳴った。


「っ、やべっ! 芽衣さん、そろそろいいですか?!」

「ん? あぁ、ごめんなさい。時間とったわね、また何かあったら連絡するわ」

「了解です失礼しました!」


 急いで教務室を後にする。

 確実に1限は遅刻だな……最悪だよ。

 教務室から階段に向かいつつ、俺は朝の授業がより憂鬱になっていた。


「───妖精の匂い、強くなってたわね……」

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