第19輝 通学
魔法少女に変身した翌日、俺は届いたメールを確認しながら頭を抱えていた。
昨日はリリーアメシストとレイドジェードと別れた後少し遠回りをしながら家に戻り、そのままそこで眠ってしまった。多分魔力切れのせいだろう。
そうして今日、仕事を押し付けてくる魔法省の人間───桜木 芽衣から届いたメールを見て、俺は改めてため息をついた。
届いたメールに添付されていたPDFには蟹型の特殊なSOのこととイルカ型の魔人について書かれているものともう1つ───
「新たに確認された魔法少女、"クレイアンブロイド"について……」
そう、俺についての情報だ。
昨日のことは、夢ならばどれほど良かったでしょうか……このメールで夢じゃなかったことは確定してしまったんだが。
だがまぁ、なんというか、手が早いというか……さすが芽衣さんだな……
適当に流し読みしつつ、クレイアンブロイドについて書かれた資料をスクロールしていく。
恐らくあの場にいたリリーアメシストとレイドジェードの証言をまとめたものだろう。───うわ、魔晶石の形とか魔法の属性とかで散々な言われ様されてる……二重人格とか……
いやまぁ、疑いたくなる気持ちも分からなくもないが、それにしたって『心に闇を抱えている可能性大』ってのは言い過ぎなような気がする。
それに、気になる記述もあった。
「早期のカウンセリングのため、魔法省への同行を促す───拒否された場合は身柄を拘束してでも魔法省に連れてくること……?!」
思わず、額に手を当ててしまう。そんなに危険な状態なのか?! いや、分かってる。魔晶石なんて言う命そのもので魔法をぶった斬ってるんだから、そりゃ異常だ。
───だからって拘束してまで魔法省に連れて来たいか……? 普通。
はぁ、暫くは魔法省の魔法少女とは接触しない方が良さそうだな……
「ってやべ、こんな時間だっ!」
特に意味もなく付けていたテレビから7時半の知らせが流れたのを聞いて、ノートパソコンを閉じて急いで準備を始める。
幸い、ノートパソコンをカバンにぶち込むだけで直ぐに出発できる。
「行ってくるッ!」
「はい、行きましょう」
急いでいた俺は、その返事になんの違和感も持たなかった。
◇
「で、なんでお前が着いてきてるんだよッ……!」
通勤通学中の皆様で込み合ったバスから降りてすぐ、俺の肩付近で浮かんでいる白猫に、周りの人に怪しまれないように声静かに言う。
いや、朝から姿を見ないなと思っていたんだ───まさか学校に持ってくカバンの中にいるとは思わねぇじゃん!
「サポートフェアリーなのだから、近くにいるのは当然では?」
あっけらかんとして答える白猫に悪気がなさそうだから余計にタチが悪い……
「あのなぁ、お前みたいな存在が近くにいたら俺の正体がバレるだろ? せめてカバンの中で大人しくしてろ」
「私みたいな存在……? あぁ」
白猫は合点が言ったように左前脚の肉球に右前脚をポンと乗せてから続ける───そんな人間みたいに器用なことできるんだ……
「私の姿は基本人間には見えませんから、大丈夫ですよ」
「はぁ?」
思わず少し大きめな声で返してしまった。
通行人の何人かが可哀想な人を見る目で見てくる……恥ずかし。
それより、人間には見えないってどういうことだ? 続きを促すように白猫を見ると、少しニヤッと笑ってから続きを話し始めた。
「そもそも、私は貴方の力の一部から生まれた存在であることはお伝えしましたよね?」
「あぁ」
「魔法少女の認識阻害については知っていますか?」
「ん? あぁ、なんとなくだけど」
確か魔法少女は身に纏っている魔力によって顔を晒して戦っていても本人を特定されない……みたいな感じだったか。
「魔力を纏うことで本人を特定されない───純粋な魔力のみで構成された私は、果たして周りから認識されるのでしょうか」
なるほど、確かに認識されない気がする。だが、それでも例外……というか、その道のエキスパートには見つかるということにならないか?
「あぁ、魔法少女にも見つかりませんよ、貴方が魔法少女にならない限りは」
「……何故だ?」
「先入観ですよ。先入観が、私の姿を見れなくします」
「はぁ?」
先入観? 意味がわからない。なぜそれで白猫の姿が見えなくなるというのだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます