第18輝 名前
「───助けてもらってすぐで恐縮なのですが、魔法少女名を教えて貰ってもいいですか?」
魔法少女らしい自己犠牲に嫌悪感を抱きつつレイドジェードを見つめていると、彼女に支えてもらっているリリーアメシストが俺に問うてきた。
───魔法少女名か……考えてなかった。どうしよう。
白猫に再度助けを求めるように目線を送るが未だにそっぽを向いたままだ。子供かよ……
「魔法少女名は……そうだな……」
自分で考えるしかないか……何かいいのはないか……?
自分の体を見回していると、黄金色の宝石でできた剣が目に止まった。
「───クレイ……クレイアンブロイド。魔法少女クレイアンブロイド、それが私の名前」
「クレイアンブロイド……初めて聞きいたわ……ありがとうございました。貴女のおかげで私たちは死なずに済んだわ。改めて、私からも感謝を」
「気にしないで。当然のことをしただけだから」
短く返し、頭を上げさせる。正直これ以上ここには止まれない。魔力も限界で、変身が解けるのも時間の問題だ。
「2人はこの後どうするの?」
「私たちはこのままここで待機しています。恐らく、私の後輩たちが応援を呼んでくれているでしょうから」
「お前はどうするんだ? リリーが名前を知らないってことは"野良"か"なりたて"だろう?」
応援……ということは2人よりも強い魔法少女達が来る可能性が高い。そろそろ魔力も切れそうだし、魔法省の魔法少女とこれ以上関わりたく無い。
「なら私は───」
◇
「それで、コンタクトは取れなかったと」
「はい、応援が到着した時点では既に……」
「そう……仕方ないわね」
戦闘に突然乱入してきたという新しい魔法少女、クレイアンブロイドの情報を見つつ、私は頭を抱えた。
───魔晶石を武器として振るう魔法少女。明らかに異常だ。
魔法少女にとっての魔晶石とは、心であり命そのものだ。砕ければ心は壊れ廃人に、変身能力は失われ常人に。最悪、死ぬ。
それを武器として振るい、しかも準2級のSOが放った魔法を両断してしまえるほどの鋭さを有している……
「光魔法を扱う魔法少女の魔晶石とはとても思えない……」
目の前の私に報告に来ていた魔法省の職員には聞こえないように呟く。
魔法少女の使う魔法も、その人の心に由来するが、多種多様な魔法の中でもある程度は分類することができ、火系、水系、自然系、光系、無属性の5系統に分けることができる。中でも光系に適正のあった魔法少女は過去に数えるほどしかいない。
選ばれた、清く正しき心を持つものだけが使える属性、それが光系の魔法なのだ。
───光魔法を扱えるほど聖人でありながら、剣の形をとるほど鋭利な心……二重人格か、それとも相当な闇を抱えてしまっているか……いずれにせよ、良い状態ではないだろう。早めにカウンセリングをしたいところだ。
「芽衣さん……?」
「いいえ、なんでもないわ。それより4人の容態は?」
早めにクレイアンブロイドには魔法省に来てもらわなければならないと考えながら、ここにはいない4人の魔法少女について報告を受けることにした。
「はい、リリーさんとリーテさんは2人とも魔力で眠っています。リーテさんの方にはバルクさんが付いていますが、レイドさんには念の為、精密検査を受けて貰っています」
「そう……」
レイドジェードは先の戦闘中にクレイアンブロイドに治癒系の魔法を掛けられていた。魔法少女とはいえ野良の訓練もまだまともに受けていない魔法少女の治療では、何かミスがある可能性もある。精密検査の結果次第では、いい意味でも悪い意味でも、あの新しい魔法少女をここに招かなければなるまい。
「レイドジェードの検査結果が出たらすぐ教えてちょうだい」
「はい。了解しました」
「───それと、ウチにいる魔法少女たちに連絡を」
レイドとリリーを救ってくれたこともある。一度クレイアンブロイドには会って礼を言いたい。
───彼女の魔晶石の件もあるし、多少強引になってしまったとしても、カウンセリングだけでも受けてもらうべきね……
「野良の魔法少女、クレイアンブロイドを見つけたら、魔法省に同行してもらうように説得を。不可能なら最悪拘束してでも連れてきてちょうだい」
そう目の前の職員に伝令を任せ、開いていたパソコンからクレイアンブロイドに関するデータをとある人物に送信する。『新しい野良の魔法少女が見つかったみたい。現場にいた魔法少女が見た情報だけだから分からないことも多いけど、何か分かれば伝えてちょうだい』と添えて。
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