第17輝 説教

「セーイー?」


 イルカの魔人と蟹のSOが去ったあと、怒ったような声音を出しながら、白猫が俺の目の前に出てくる。

 そういえばめっちゃ置き去りにしてたな……


「勝手な行動は困りますっ! まだ貴方は魔法少女になったばかり。対処出来る力があるかも分からないんですよ?!」

「い、いや、ほら、使える魔法は頭の中に思い浮かんだから───」

「そういう問題じゃありません!」


 実際、使える魔法は頭に浮かんできたし、それがどれぐらいの規模で、どういう効果を表すのかも理解出来ていた。あの場面で俺ができる最善策を選べていたはずだ。


「大体、最後の魔法の対処のことは頭になかったでしょう?! 願いの魔法まで使って魔力も限界なのに! その剣の切れ味が良かったから助かったものの!」

 

 ───図星です。はい、何も言い返せません。確かに最後の魔法の対処は正直賭けだった。

 いや、勝算はあったんだ。嘘じゃない。この長剣の刃の材質的に、あの場面、あの魔法程度なら斬れるとそう信じていた。

 この剣の刃は……多分"魔晶石"だ。

 魔法少女の力の源であり、そのそのもの。それがこの魔晶石。

 魔法少女の魔晶石は基本、変身後はアクセサリーのように体のどこかに身につけていることが多い。なんで俺のこれが剣身を象っているのかは分からないが、この剣が魔晶石でできている以上、その耐久力や斬れ味は俺の心に依存する。なにせ、心そのものなのだから。

 ならば、俺があの魔法を斬れることを半ば確信し、更に強く斬れろと願えばそれだけこの刃の斬れ味も上がる。魔法だろうと関係ない、ただ、願い、確信すればするほど、この剣に斬れないものはなくなる。そう考えた。

 まぁ、つまるところ勝算の高い賭けだった、ということ。俺と後ろにいた2人の魔法少女の命をかけるに値するぐらいには。

 リリーアメシストともう1人の白い魔法少女には悪い事をしたな……あれぐらいしか考えられなかったとはいえ。


「そういえば、あの2人はどうした?」

「話を逸らす気ですか?!」

「いや、違うって!」


 怒ったままの白猫をあしらいながら、リリーアメシストがいた方向を見ると、薄汚れてしまっている白い軍服のような衣装の魔法少女に介抱されているリリーアメシストの姿が確認できた。

 ───たしかレイドジェードだったか。リリーアメシストの1年後輩だった覚えがある。

 というか、残り2人はどうした?

 基本、魔法少女は4人1組のスクワッドで行動しているはず。残りの2人の姿が見えないということは……もしや───


「礼を言う」


 そんな演技の悪いことを考えていると、リリーアメシストの肩を支えながら近づいてきたレイドジェードが話しかけてきた。


「回復魔法とリリーを守ってくれて、本当にありがとう」


 そう言って頭を下げたレイドジェードは、少し震えていた。

 ───なんて返せばいい? え、どうしよ。

 助けを求めるように白猫に目線を送るが、ツーンとそっぽを向かれてしまった。テメェ……


「───礼はいらないよ。2人とも、無事なら良かった」


 極力女性っぽい話し方を意識して喋る。俺が男だってことはバレちゃいけない。男が魔法少女になるなんて前代未聞だ。バレたら良くてモルモット、悪くて解剖コースだ。


「頭上げて? それより、他の2人は? 魔法省所属の魔法少女は4人1組が基本のはずだけど……」


 直球すぎる質問かもしれないが、聞いておかなきゃいけないだろう。もし2人以外が亡くなっていたら、この後のことも考えなきゃいけない。

 心のケアとかは専門外だが、魔法省に送るぐらいはしなければしてあげなければいけないだろう。

 魔力的にはギリギリ大丈夫だろう。送るぐらいなら。


「あぁ、逃がしたんだ。援軍を呼んでくれと伝えて」


 幸い地雷を踏み抜くことは無かったが、むしろ聞き捨てならない言葉が聞こえてきた。


「逃が、した?」

「あぁ、2人とも新人で今回が初陣だったし、1人は戦える状況ではなかった。2人には荷が重いと判断した」


 当たり前のことをした、という顔で平然とそう言う彼女は、やはり、ということなのだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る